自分の子盗聴「山村美紗」は母としても凄かった ミステリーの女王、知られざる母の一面

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本と数学の世界に閉じこもり、浮世離れしていた美紗も、京都の封建的な家庭で育った女性である。お手伝いがいたとはいえ、女は結婚したからには家庭のことをしっかりしなくてはいけないという保守的な価値観は、美紗の中にもしっかり根付いていた。

紅葉の出産から4年ほどして、教師の仕事を辞めて家庭に入る。幼い長女におやつを手作りし、家の庭で野菜を育て、大きな鰤(ぶり)や鮭も自分でさばき、お祝い事のたびに和洋中のフルコースをこしらえる。何事にも徹底的に取り組む美紗は、完璧な専業主婦を演じてみせた。だが、そんな暮らしは数年ともたなかった。

夜中に推理小説のストーリーを考える日々

転機は次女の出産。夜中3時間おきに湯を沸かしてミルクを飲ませ、寝つくまで1時間も2時間も添い寝をする。ページをめくる音でも目を覚まして泣きだしてしまうから、本を読むこともままならなかった。ようやく寝かしつけても、次のミルクの時間まで1時間ほど。そう思うと余計眠れず、ノイローゼ寸前まで追い詰められた。

どうせ眠れないのなら、何かしよう。美紗は寝床で赤ちゃんを抱えたまま、天井をむいて小説のストーリーを考えることにした。病弱だった少女時代に、物語を妄想し、幾何の問題を解いたときと同じように。思いつくのは、決まって推理小説のストーリーだった。

ひらめきによって犯人を明確に指摘できるのが、数学の証明の問題を解いて「依って証明せられたり」と最後に添えるのに似ていたからだ。

朝になったら、片手でゆりかごを揺らしたり、おんぶしたりながら夜中のアイデアを小説に落とし込む。睡眠は次女の昼寝と一緒に細切れにとることにした。

1970年、応募作品が賞の候補となったことがきっかけで、刑事ドラマ『特別機動捜査隊』シリーズのシナリオを書く仕事が舞い込んできた。

動き回るようになった次女には「このおみかんむいてごらん」とみかんを渡す。「もうむいちゃったの。じゃ、1個ずつ並べてごらん」と次々に指示する作業に次女が夢中になっているスキに、台所や玄関で仕事をした。

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