がんになった父が6歳の娘に遺す「最後の仕事」 「5年生存率2.9%」を生き抜く

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2月のイベントをまとめたグラフィックレコーディング(写真:筆者撮影)

「最初の4年間、週1回通院しながら、点滴による抗がん剤治療を続けてきました。でも、それも効かなくなってきたので、まだ認可されていない服用薬の治験(開発中の薬を試すこと)を1年間やりましたが、がん細胞がむしろ大きくなってしまい、病院からはもう治療はできないと言われました」

悲観でも、楽観でもない穏やかな顔つきで彼は淡々とそう明かした。今まで継続してきた痛みを和らげる緩和ケアを、別の病院で続けるという。

「5年前から『最後の仕事』と決めて活動してきましたが、その最期がいよいよ近づいてきた今、『僕がいなくなってもCPは残したい』というエゴがあり、そのためにCPにスタッフとして関わってくれる人を増やしたいと、イベントを企画しました。僕のエゴに皆さんを巻き込んでいるわけですよ」

この「エゴ」の使い方は一見露悪的(自分の悪いところをあえてさらけ出すこと)で、誤解を招きやすい。だが、その「エゴ」の先には一人娘がいる。

しかも、「がんになったからこそできることを実現する」というCPの目標に、彼が誰よりも忠実であろうとするゆえの愚直さでもある。それを「僕のエゴ」と表現する点にこそ、西口洋平が強く匂い立つ。

5年生存率2.9%を自分らしく駆け抜ける

途中休憩を挟んで、約1時間半のプレゼンも終わりに近づいた。西口さんは以前と比べてかなりやせこけた体で、それでも後半はほぼ立ちっぱなしで、いつもどおりにひょうひょうと話し続けていた。

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終了間近のことだ。ネット中継でつながっていた、小児がんの男の子から「西口さんに手を振りたい」と伝えられた。彼はパソコン画面越しに男の子に手を振り、両脚をガニ股に開いて「コマネチのポーズ」を決めると、周りから「(世代が違うから)知らん、知らん」と、大阪弁で突っ込まれていた。私を「絶賛治療中」で笑わせた男は、1ミリメートルもブレていない。

がん専門医の押川勝太郎さんは、がんが心疾患や脳血管疾患とは異なる特徴を「人生の締め切りを突然突きつけられる一方、残りの時間の貴重さに目覚めることができる病気でもあります」と指摘する。

胆管がんステージ4の5年生存率は2.9%。その稀少な5年間を生き抜き、西口さんは一人娘に生き様を遺す「最後の仕事」で3500人の会員を集め、それ以上の枚数の名刺を配り、一定の収益を上げるという課題は残しつつも、多くの事業の種を育てた。CP代表として濃密で、ビジネスマンとしても豪勢な時間を駆け抜けようとしている。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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