この連載のキーワードである「行動(アクション)」という言葉も、私が当事者から最初に聞いたのは西口さんからだ。2018年7月のCP会員の交流会に集まった24名の会員たちに、彼はこう呼びかけていた。
「今日の参加を機に、自分が実践したい行動を1つ考えてください。今すぐ実現できそうな身近なものがいいですね。行動を起こすことで気持ちが前向きになり、生きるチカラになると思います」
彼はベンチャーの人材紹介会社に勤めながら、CP代表として実名と顔出しで、メディアの取材を受けてきた。それに何のためらいもなかったのか。
「ベンチャー企業も社長が実名で顔出ししないと、社会的な信用をなかなか得られない。僕も子どもがいるがん当事者として活動を始めた以上、より多くの会員を集めるために、ごく自然にそうしようと思いました」(西口さん)
なぜ、そんなことを聞くの?と言わんばかりの顔で、彼は言った。ベンチャービジネスと並列で、CPの活動を語れる点が彼の強み。ところが、同じ2回目の取材後半で、CPの立ち上げについてこんな本音も明かしてくれた。
「厳しい状況で何か行動を起こさないと、病気に押し潰されそうな不安も当時感じていました。ですから実際には、弱さの裏返しかもしれませんね」
父親が6歳の一人娘に遺す「最後の仕事」
2020年2月末の昼下がりに、都内で開かれたCPのボランティアスタッフの募集イベント。西口さんは胆管がんで入院した際の光景を語っていた。
「6人部屋の病室は全部70、80代の男性で、話し相手もいませんでした。夕食後は、同じ病室のおじいちゃんたちが、プロ野球のナイターの生中継をテレビで観ていて、試合展開によって、時々ウォーッと歓声が上がったりして、僕にとっては『うるさいなぁ』という感じでしたね」
男性のがんは50代から増え始め、70代後半から80代前半でピークを迎えるパターンが多い(2013年に国立がん研究センター発表)。当時35歳で、一人娘がまだ6才だった西口さんの孤立感は想像できる。
がんの部位別に、当事者が地域で交流する「患者会」とは違い、CPは子どもがいること(年齢制限なし)を条件に、SNSで交流する点が新しかった。
日本人の死因の3割はがんだから、当事者たちが何に悩み、何が必要なのかといった情報には必ず価値がある。西口さんは当初からそう確信していた。一定数の人たちが抱える問題を解決するのが、ビジネスの本質だからだ。
「会員を集めてその声を社会に届け、一定の収益を安定的に出せる仕組みを編み出して、CPを存続させたいんです。結果、がんになっても働きやすく、暮らしやすい社会を実現する一翼をCPが担えればいい。それができれば、誰もやったことがない分、カッコイイ仕事になると思いました」(西口さん)
一人娘に遺す「最後の仕事」と誓った。父親の生き様を娘にずっと覚えていてほしい、それが彼の最大のモチベーションだ。
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