がんになった父が6歳の娘に遺す「最後の仕事」 「5年生存率2.9%」を生き抜く

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この連載にも登場した嶋田美佳さん(仮名・50)は、「CPの魅力は人ですね」と語ってくれた。

「西口さんをはじめ、皆さんが治療の後遺症や、抗がん剤の副作用に悩まれているはずですが、CPの会議では病気の話はほとんど出ません。家庭や仕事を持ちながら、自分たちができることを社会に発信しようとしています」

同じく関直行さん(42)は、家族でNHK総合テレビの朝のニュース番組に実名顔出しで出演。CPががんをテーマに製作した、親子で読める絵本を愛娘に読み聞かせる場面が放映された。関さんは当事者同士で集まり、互いに慰め合うような団体に参加するつもりは毛頭なかったという。

「でも、同じビジネスマンとして、当事者の悩みや情報を社会に発信することで事業化しようという、西口さんの発想にはとても共感できました」

西口さんが掲げた「行動(アクション)」という前向きな言葉に、何かを直感したり、共感したりした人たちがちゃんと集っている。

一方で、西口さん本人は2月末のイベントでも、「がんになったお父さんとお母さんの“出会い”系サイト」と語り、ちゃっかり笑いをとっていた。

「僕のエゴに皆さんを巻き込む」と言う理由

2月のイベントで、西口さんはこの4年間の軌跡と、CPの活動の全体像を紹介した。主に会員たちによる情報発信と、企業や大学との協働事業だ。

前者は、会員が講師役となる小中高校でのがん教育や、がんをテーマに親子で読める絵本の出版(2作目の出版を計画中)。

クリニコ協賛のイベント「栄養と運動」セミナーに参加する西口さん(写真:筆者撮影)

私も1冊目の絵本発売前の販促会議や、一昨年末の出版記念パーティーに参加。出版の素人集団が悪戦苦闘しながらも出版社を探し、会員各自が新聞やテレビに露出し、初版3000部を売って増刷する過程を目の当たりにした。出版不況下、小さな奇跡と書いても過言ではない展開に驚かされた。

後者は、生保や食品、製薬や調査会社と協働でのセミナー開催や、アンケート調査を行う「キャンサーベイ」事業。私も当日が初耳だったが、東京大学や慶応義塾大学との協働による実証研究も始めていた。

CPが掲げる「行動を通して会員同士が、さらには会員が社会とつながることが、会員の生きるチカラになる」というスローガンの実証だ。 

一方で、彼は2年前から「西口商店」という言い方にこだわり続けてきた。

「自分たちの活動を、『がん患者のために』なんて口にした瞬間、僕には現実感が失われてしまうからです。CPはあくまでも『西口商店』で僕のエゴで、僕がやりたいことを実現する場所。CPの看板を使って、ほかの会員さんにも同様に、各自がやりたいことをやってほしいんです」(西口さん)

くしくも2月末のイベントでも、西口さんは自身の病状を率直に明かした後、この「エゴ」という言葉を2度口にした。

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