国立がん研究センターの統計によると、2016年にがんと診断された約100万人中、15歳から64歳の就労世代は約26万人。全体の約3割だ。
だが、治療しながら働く人の声を聞く機会は少ない。仕事や生活上でどんな悩みがあるのか。子どもがいるがん経験者のコミュニティーサイト「キャンサーペアレンツ」の協力を得て取材した。
2014年の盲腸手術でがんが見つかった、人材紹介会社勤務の金澤雄太さん(37)。前回記事で取り上げたように、彼は復職後、自ら管理職を降格して働き続け、2018年には月間MVPを受賞している。
金澤さんの会社には、がん経験者のための就労支援制度はない。では、なぜ大腸がんで、複数回の転移経験がある金澤さんは、そんな活躍ができているのか。今回は、金澤さんが職場の上司と登壇したトークイベントを入り口に、職場の秘密を探っていく。
「待っているから必ず戻ってこい」と言える上司
「がん治療中の部下と上司のいい関係」というイベントが、2019年6月に都内で開かれた。主催はがんアライ部。治療しながら働くがん経験者が、いきいきと働ける社会の実現を目指す民間プロジェクトだ。がん経験者への就労支援制度を整備する企業の表彰も行っている。
金澤さんは、32歳で受けた盲腸手術で切除した部分にがんが見つかった。イベント冒頭、金澤さんが約5年前に、上司に電話で診断内容を伝えたときのエピソードが印象深かった。
「上司は一瞬息を飲んでから、『待っているから必ず戻ってこい』と言ってくれました。それまで雇用と収入の両面でモヤモヤしていた不安が、その一言でいったんなくなり、とてもうれしかったですね」
もしも、上司に電話口で落胆され、今後の処遇についても言葉尻を濁されていれば、金澤さんは休職中も不安に苦しめられていたはずだ。
その後、彼が最初に復職した際には、同じ上司が「業務量も売上目標も変えないまま、まずはチャレンジしてみよう。結果が厳しければ、その都度考えていこう」と、話してくれたという。今振り返ると、上司が自分のことを甘やかさなかったことがよかったと、金澤さんは語った。
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