病気治療中の人が活躍する職場の"意外な秘密" がんに罹患した後に月間MVPを獲れた背景

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2人のトーク終了後、参加者から金澤さんに、「がん経験者として、会社にあればよかったと思った制度はありますか?」という質問が出た。

金澤さんは、「会社のフレックスタイム制と、有給休暇でかなり助かりました。定期検診や急な体調不良時には、時間を柔軟に使い分けられることが、最もありがたかったですね」と即答した。

同社のコアフレックスは午前11時から午後4時までの5時間。その範囲内で定期検診や、突然の体調不良に対応できない場合、金澤さんは半日単位でも取れる有給休暇を活用する。直属の上司への口頭申請だけで済むという。

「半休をとって、『午前中に病院で定期検診を受けて、午後から出社する』とか、『出社したけれど体調がすぐれないので、午後は自宅で静養して様子を見る』という働き方ができるんです」(金澤さん)

年間の有給休暇を超えた分は休職扱いで無給。だが、それ以外はコアフレックスと、半日単位の有給活用でほぼ対応できたという。テレワーク制度はあったが、彼は「自分の性格上向かない」と考えて利用しなかった。

がんに特化した就労支援制度はなくても、本人の意思と選択を尊重しながら柔軟に働ける仕組み。それが治療中の部下と上司のいい関係を保っている。

他方、企業が実施している就労支援制度には、フレックスタイムや時短勤務のほかに、長期傷病休暇や無理のない復職支援、通院や検査入院のための公休制度などがある。

専門医が「仕事と治療の両立」を勧める理由

今回のように「仕事と治療の両立」と書くと、「がんになっても働き続けないといけない、ひどい社会だ」と書き込む人がいる。

しかし、がんの種類やステージによっては、医療の進歩によって「がん=死」ではなく、「がんと付き合っていく」時代が近づいている。がん患者全体の5年相対生存率は男女合計で62.1%(国立がん研究センター発表 2020年1月末時点)。がんと付き合う期間が長くなる分、治療費はかかる。

また、がん専門医の押川勝太郎さんは、医師と相談のうえで支障がなければという前提で、仕事と治療の両立を勧めている。仕事を辞めて治療に専念すると、体調の些細な変化に神経質になりやすく、検査結果などにも一喜一憂してしまい、人によっては心のバランスを崩しやすいためだという。

「必要な治療は続けながら、会社では病気のことを忘れて仕事に没頭する。そんなメリハリがある生活を心がけたほうが、治療にも前向きな効果が期待できます」(押川医師)

がん経験者への就労支援制度を整備する企業は少しずつ増えている。だが、制度がない企業でも、金澤さんが既存の社内制度を活用し、仕事と治療に時間を柔軟に使い分けて、業績を上げている意義はとてつもなく大きい。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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