ザックの目からしたら、“まだ理解しているつもりにすぎない”のだが、選手たちからしたら“聞き飽きたこと”になってしまった――。真に優れた教師なら、うまく目先を変えて、秘かに基礎の反復にもなっているという指導をできるかもしれないが、ザックにはそこまでのサービス精神はなかった。乱暴に言えば、ストイックに暗記を求める一方で、選手たちはそれに新鮮な気持ちで取り組めなくなっていった。
両者の齟齬がピークに達したのが、6月のコンフェデレーションズカップだ。初戦でブラジルに敗れると、選手だけの緊急ミーティングが行われた。主な議題は戦術。もはや監督だけに頼っていられないということだ。ザックも危機を察し、キャプテンの長谷部誠を呼び出して現状確認を行った。再び一丸となって直後のイタリア戦で善戦するも勝利はつかめず、結局、日本は3戦全敗で大会を去った。
結果が伴わないと、歯車はさらにかみ合わなくなる。
8月のウルグアイ戦ではフォルランとスアレスに蹂躙され(2対4で敗れた)、10月の東欧遠征でセルビアとベラルーシに2連敗。ついにメディアでザック解任が議論されるようになった。
「地味な作業」に取り組みづらい空気
だが、ザックもカルチョの国を生き抜いてきた強者だ。7月の東アジアカップで結果を出した柿谷曜一朗、山口蛍、大迫勇也ら若手をメンバーに加え、マンネリ感を吹き飛ばそうとする。
11月のベルギー遠征ではこの3人を積極的に起用し、オランダ相手に2対2、ベルギー相手に3対2という好成績を残した。ザックが合宿初日に、感情をあらわにして選手を引き締めたのも効果があった。高まりかけたザック解任論も、これによって沈静化する。
ただし、現在の構造的問題は、一瞬の輝きで解決するものではない。過去に何度か疑問が生まれた公式を、心から信じて、完璧なレベルにまで反復するのはそう簡単ではない。それにW杯のような大一番を目の前にすると、「はたしてこのやり方で大丈夫なのか?」という疑念が生まれやすくなる。
長所と短所は、コインの裏と表だ。ザック流の公式暗記型の指導法にもメリットとデメリットがあり、後者はW杯において爆弾になる可能性がある。
悪いことに、ブラジルW杯が目前に迫った現在、暗記と復習いう「地味な作業」に取り組みづらい空気が流れている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら