「求人倍率100倍」の運送会社が忘れない"痛み" 悲しい事故をきっかけに社長が変えたこと

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そして、人の心、従業員の心を信じたい、「心」をベースにした経営をしていきたいという思いが湧き上がってきたのです。すると、社員は評価し、管理する対象ではなく、「一つひとつの命」として見えるようなりました。もちろん、それはお客様も同じです。

物流会社の経営者として社員やお客様、社会のために何をするべきか。そんなことも自然に考え、アイデアが浮かぶようになっていきました。

会議のやり方も変えました。まず、すべての数字を全従業員に開示することにしました。

各事業所の売上、利益、目標値との差、前年比……。部署や役職の隔たりなく、見たい人は誰でも自由に宮田運輸の経営状態を知ることができます。

さらにこの会議は、社内に限らず、すべての人に開放しています。それが毎月1回日曜日に開催している「みらい会議」です。

大阪は高槻を拠点に福島、愛知、福岡まで、各事業所から誰でも自由に参加できます。事前に予約すれば参加費無料で、同業他社の社員でも、他業種からの見学でも、主婦や学生でも参加できるオープンな会議です。

午前中は事業所ごとに業績数値を発表します。すると、会議の場など不慣れなドライバーが幹部を相手に「なぜ、売上が伸びないのか」と聞くこともあれば、パート従業員の方から「目標が厳しすぎるんじゃないか」と言われることもあります。

午後からは研修です。外部から講師に来ていただき、ともに人の内面に触れる研修を行い、話し合うこともあれば、全員でヨガのプログラムを体験することもあります。大切なのは、心を動かすこと。心を動かして、人を信じる気持ちを育むことです。

私が社長に就任したころの幹部会議は、所長が発表すると私たちが「なんでできへん?」「こうすればできるんちゃうか」と責め立てる、殺伐としたものでした。

それが「みらい会議」では、参加者が主体性を持って次々とアイデアを出し、強制されたわけでもないのに現場の改善策が次々と提案されていきます。

私は、経営者が「人をどう動かすか」ではなく、「人はどんなときに動きたくなるのか」と考えれば、うまくいくのだと気づかされました。

「あおり運転」「危険運転」を防ぐ取り組み

現在の宮田運輸には、従業員同士が「助け合う」文化が根づいており、大きなトラブルなどが起これば、全国の事業所から自主的に従業員が駆けつけて問題解決にあたります。

もちろん、上司が指示を出すわけではありませんし、助けに駆けつけたからといって手当てが出るわけでもありません。

私から各事業所の所長へ、所長たちから従業員に伝えているキーワードがあります。

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