「求人倍率100倍」の運送会社が忘れない"痛み" 悲しい事故をきっかけに社長が変えたこと

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私にできたのは、小さな声で「わかりました。誠心誠意尽くさせていただきます」と申し上げ、その場を後にすることだけでした。

私が自身の仕事や経営について語るうえで、この事故の話を避けて通ることはできません。

なぜなら、事故が起きた原因は、経営者である私自身にあったからです。

4代目の社長に就任し、新体制をスタート

トラックを運転していた従業員は、当時、配車係でした。事業所で運転士のスケジュールを管理し、トラックの運行を調整する管理職だったのです。ところが、事故の当日は人手が足りないところに、追加の運送の依頼が舞い込みました。そこで、もともとドライバーだった彼は自主的にトラックを出してしまったのです。

運転の現場から離れた立場だった彼が無理をした背景には、お客様のためという気持ちとともに、業績を伸ばすため、数値目標をクリアするように迫っていた私からのプレッシャーがあったと思います。

私の祖父、叔父、父親と社長を引き継いできた宮田運輸は、大家族主義的な経営を行っていました。

従業員を大切にし、力を貸してもらう。とにかく人を大切にする会社。18歳からここで働く私もまた、そんな宮田運輸の文化を愛し、その力を信じてきました。

当時、宮田運輸の経営状況は大きな危機にあったわけではありませんでした。ただし、順風満帆というわけでもなく、売上は伸びるものの、利益は横ばい。何かを変える必要があるという状況でした。

そこで、創業45周年の節目に4代目の社長に就任した私は、それにプラスして明確な目標値を打ち出します。

「25年後の70周年には売上高300億円、従業員2000人の規模に成長させる!」

そう宣言し、幹部社員を集めた合宿を行い、ビジョンを語り、長期の経営計画を立て、新体制をスタートさせたのです。

従業員とその家族は大事。しかし、数字も大事。口には出していませんでしたが、私は社長になった瞬間から「これまでの家族的な経営からの脱却」と「明確な目標に向け、従業員を引き締め、管理しながらビジョンを達成する事業体」をイメージしていました。

その改革の第一歩となるのが、目標数値と現状を照らし合わせ、明確な数字というモノサシで語られる幹部会議……のはずだったのです。

しかし、幹部会議の空気は回を重ねるごとに重たくなっていきました。参加者である所長たちからは笑顔がなくなり、「会議が嫌で、嫌で」とこぼしているという噂も耳に入るようになってきました。

次ページ数字と目標で社員を縛り、消えていく主体性
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