ピケティ「21世紀の資本」が映画化された背景 資本主義問う経済書をドキュメンタリーに

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『21世紀の資本』が世界的ベストセラーになったということで、ピケティ教授の元には数多くの映画化オファーが舞い込んできていたという。しかしその中からピケティが選んだのは、ニュージーランドのプロデューサー、マシュー・メトカルフと、ジャスティン・ペンバートン監督によるプロジェクトだった。

過去の映画作品や、実際の映像などを引用しながら原作の内容を解説 ©2019 GFC (CAPITAL) Limited & Upside SAS. All rights reserved

その理由についてペンバートン監督は「そのとき、ピケティ教授は、この映画はフランス人でも英国人でもなく、彼が言うところの“グローバルな自我を持つ人”によって作られるべきだと考えていた。われわれはニュージーランド人、つまり“アウトサイダー”であり、わたし自身、グローバリストで、自国の政治や問題だけを考えているような人間ではない」と分析している。

ピケティ教授がこの映画を作りたいと思った理由は、彼の著作を読んだことがない人にも広く届けたいという思いからだったという。

そこで映画では、資本の経済的歴史を、数多くのポップカルチャー作品を引用しながら解説している。本作で引用されている主な映画は、『プライドと偏見』(2005年)、『レ・ミゼラブル』(2012年)、『怒りの葡萄』(1940年)、『ウォール街』(1987年)、『エリジウム』(2013年)など。その他、「ザ・シンプソンズ」などのテレビアニメ作品も効果的に引用されており、大衆にも親しみやすい語り口となっている。

映像でわかりやすく解説、本の“増補版”の役割も

ピケティ教授は、「この映画はわたしの本のすばらしい増補になった」と評価、ペンバートン監督も「数世紀にわたる富やお金の苦労にまつわる話こそが、大衆の物語における中心的なテーマだったのだから。われわれと資本を取り結ぶ関係は、昔からずっと描き続けられてきたものだ」と語る。

これによって、ピケティ教授が主張する「貧困」や「格差」「不平等」といったキーワードが、血肉が通った人間の営みとしてまざまざと浮かび上がる。

とくに近年は、本年度アカデミー賞を獲得した『パラサイト 半地下の家族』(韓国)や、是枝裕和監督の『万引き家族』(日本)、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』(アメリカ)など、貧困、格差、不平等をモチーフにした作品が賞レースをにぎわせている。まさに世界各国で、そうした問題が切実に捉えられているということなのだろう。

本作では、さらにノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツ・コロンビア大学教授や、国際政治学者のイアン・ブレマー氏など、数多くの経済学者や歴史学者、ジャーナリストやエコノミストが登場し、社会の仕組みを解説している。

もちろんピケティ教授自身も出演し、「経済」というものが人間にどう影響を与えてきたのか、ということに多くの示唆を与えてくれる。

ピケティ教授自身は本作を、若い観客に向けて届けたかっただけに、「この映画を自分の娘に見せてどう思うか、感想を聞いてみたいよ」と自信を深めているようだ。一生懸命働いているのに、なぜ富を得ることができないのか。この映画は、そうした課題をあらためて考えてみる機会となりそうだ。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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