ブリーダーというと動物が対象というイメージが強いが、実は植物のブリーダー(育種家)のほうがはるかに多い。自身もブリーダーである著者が、ジャガイモ、梨、リンゴなど7種の野菜、果物の品種改良の歩みをたどる。そこには、ほかのビジネスと同様に、たくさんの胸が熱くなるような研究開発のドラマがあった。『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』を書いた、育種家の竹下大学氏に聞いた。
思ったとおりの品種が作れることのほうが少ない
──植物のブリーダーはタイムマシンが使えるそうですね。
例えば、リンゴはゴルフボールより小さかったのが、いろいろな変化を遂げ、今の形になりました。ブリーダーは現在の品種とその祖先である野生種を交配させることで、その品種の進化の過程を確認できます。過去に戻れるのはこの仕事の役得、特権ですね。
自分が立てた仮説と同じ方向で、しかも想像を超えた結果が出るのが最もうれしい。また、育種に携わるうちに、「俺がいちばん知っている」と傲慢になりがち。でもまったく想像していない方向で驚くような結果が出ることもあり、そんなときは「よくわかっていなかった」と謙虚な気持ちになります。
──つらいことは?
思ったとおりの品種を作れることのほうが少ないんです。そして、思い描いていたより劣ったものでも、妥協して商品化することがある。数多く作ればいい品種が生まれる可能性が高まるが、決まった研究開発費の範囲内でやらなければなりません。
開発競争で余裕がないと、つねにいちばんよいと思われる品種を出し続けることになり、そんなときは、ほかの人にすぐ追いつかれてしまう。まねをするほうが楽ですから。理想的なのは、カードゲームに例えれば、最高のカードはあえて出さず、ちょっと下のカードで勝負していくことです。