日本人が知らない「植物ブリーダー」の実態 日本ではマイナーだが、欧米では人気の職業

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どの段階でいい品種と判断するかは難しい。工業製品と違い、同じ品種を育てても、消費者が手に取る段階では同じスペックになりません。土地や生産者の栽培方法などが変われば味は変わります。いい品種とされると、多くの生産者が作り始めるからB級品も流通し、評価が下がってしまうこともある。逆に、最初は低い評価を受けた品種も、その能力を発揮させるような栽培方法を見つけた生産者に出会えれば、スターになることもあります。品種、育種家、生産者の3者が一緒になって世の中に広げていくんです。

日本の育種レベルの上げるには?

──日本のブリーダーの水準は世界的に見て高いのですか。

平均的には優れていると思います。海外では分業体制が進んでいて、ブリーダー以外に現場の作業員が大勢います。一方、日本では作業的な部分もブリーダーが自ら行う場合が多い。そのため植物の変化に気づきやすく、それが成果に結び付いているのではないか。もちろん、ブリーダーはつねに忙しくなり、育種の効率性の点でどうかは別の議論になりますが。

『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

──日本の育種のレベルを上げるために、どうしたらいいですか。

研究開発の才能がある人に、もっとこの分野に来てほしいと考えています。身体能力が高い人はマイナースポーツに行かない。育種という仕事を若い人に知ってもらい、層が厚くなれば、すごいことが起きるかもしれないというのが、この本を書いた動機の1つです。

また、現役のブリーダーにはビジネスマンとしてのバランス感覚を持ってほしいですね。みんな育種が好きでブリーダーになるんですが、好きが募りすぎると危ない。世の中に価値を提供するための育種ということを忘れてしまう可能性があります。深く狭くという人が多いけれど、ファッションでも芸術でもいい。植物以外にもアンテナを立てたほうが、イノベーションが生まれるのではないか。

──自分は植物に操られているかもしれないと思うときがあるとか。

植物が人間に進化の後押しをさせているのかなと。品種とブリーダーは競馬の馬とジョッキーの関係に似ています。競馬で勝っていちばん注目されるのは馬であり、育種では品種です。ブリーダーはジョッキー。「俺がやったんだ」と言いたがる人もいますが、どうでしょうか。命あるものを変えていくのは、人間にはできない部分も大きい。植物が自ら頑張って変わっていくのを、私たちは手伝っているんだと謙虚に考えたいと思っています。

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