舞台はオリンピック景気後、転落の一途をたどる2024年の東京。国の財政はいよいよ逼迫、さまざまな治療が保険適用から外されていく。究極の策として浮上したのが、心身共にもう見込みがない人、延命を望まない人はどうぞ死んでくださいという、「安楽死特区構想」だった。小説『安楽死特区』を書いた長尾クリニックの長尾和宏院長に詳しく聞いた。
日本人がスイスに押し寄せかねない
──昨年NHKで放映された、日本人女性がスイスで安楽死を遂げる番組が大反響を呼びました。「ありがとう」とささやいて穏やかに逝く姿に、モヤモヤしていた「安楽死」という言葉が、現実の形を帯びたような気がします。
彼女を担当した医師とは、私は2回会っています。スイスには安楽死団体が複数あって、数年前に訪問したとき「ここで見たことは日本で話さないでください」と言われました。なぜか。日本人が押し寄せてしまうからです。
日本で安楽死はもちろん認められていません。単なる殺人です。だから今回の件は日本人が外国で殺人事件に遭ったのと同等です。でもそれを扱う法律がない。スイスからしたら、そんなややこしい国から大勢来られたら困るんです。そういう問題を抜きにして、こんな美しい死に方がありました、とNHKがスクープ的に放映した。
『週刊文春』の調査では日本人の8割が安楽死に賛成だった。昨日、大阪で講演したんですが、やはり3分の2の方が安楽死に賛成でした。終了後、若くピンピンした男性に「紹介状を書いてくれ」と1時間つかまりました。元気な今のうちにスイスに渡りたい、と。
──今の日本で老後を考えると何か暗くなる。だったら自分の最期は自分で決めて、楽に死にたいっていう気持ち、正直わかります。
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