日本では、なぜ「尊厳死」議論がタブーなのか 尊厳死が認められれば安楽死は不要なのに

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皆さんが憧れてるのは、安楽死じゃなく“安楽な死”。痛くない苦しまない死に方ですよね。それなら、もっと自然に逝ける尊厳死がある。皆さんいきなり安楽死に話が飛んで、ユートピアのように夢想している。でも尊厳死と安楽死はまったくの別物です。

尊厳死は、死期が近く、延命治療でなく自然な経過に任せてほしいと本人が望み、それをリビングウィル、生前意思として書く。そしてモルヒネ等による痛みの緩和に重点を置く。その結果が尊厳死です。安楽死は違います。死期は近くない、本人の希望で元気なうちに医者に“殺して”もらう。

尊厳死ができれば安楽死なんて不要

聖路加国際病院の名誉院長だった日野原重明先生も105歳で尊厳死されました。リビングウィルを書かれて延命治療を受けなかった。リビングウィルを書いて尊厳死ができれば、安楽死なんて不要なんです。私はこれまで、在宅医療で1200人以上お看取りした。みんな尊厳死です。尊厳死ならより長く生き、最後まで食べられてお話しができて、苦痛も少ない。

長尾和宏(ながおかずひろ)/1958年生まれ。医学博士。東京医科大学卒業後、大阪大学第2内科入局。95年兵庫県尼崎市に長尾クリニック開業。日本尊厳死協会副理事長、日本慢性期医療協会理事、日本ホスピス在宅ケア研究会理事などを務める。『痛くない死に方』ほか著書多数。(撮影:尾形文繁)撮影)

──確かに、発想が一気に安楽死へ飛んでいたかもしれません。

日本ではいじくり回すことが医療なんです。大学病院でもがんセンターでも、尊厳死はできない。全身に管をつながれて最期を迎える。自然死できない、させてもらえない国です。終末期の医療、延命治療で医者が従うのは学会のガイドラインであって、患者本人の意思じゃない。尊厳死ですらグレーの国。けったいな国なんです。

──そもそも、なぜ病院は尊厳死を拒絶するんですか。

本人が一筆書いた場合でも、家族から訴えられるリスクがある。日本はリビングウィルが法的に担保されていない唯一の先進国です。それどころか政府が、リビングウィルは医療訴訟のリスクが増すから「書くな」と言っていました。

それに対し、2年半前に日本尊厳死協会が行政訴訟をしました。その主張が認められ、1審2審と国が敗訴した。そして昨年11月に初めて、リビングウィルを書く行為自体は「悪いことじゃない」と司法が認めたわけです。

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