日本では、なぜ「尊厳死」議論がタブーなのか 尊厳死が認められれば安楽死は不要なのに

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──2年半かかってようやく、「書くな」から「書いてもいい」ですか……。でも法律的に認められたわけじゃないんですよね?

ええ、書いてもいいよ、の段階。これでも画期的なんです。法律はハードルが高い。尊厳死のリビングウィルの問題では僕は何回も国会に行ったし、議連や個別に出向いて説明もしてる。

ところが公に議員会館で議論となると、反対派がバーッと入ってきて「人殺し!人殺し!」と封鎖されてしまう。議員には脅迫メールが来る。少し前向きな発言をしただけでもアウト。みんな腰が引けちゃって、今この問題に踏み込む議員はゼロです。子育て支援や年金守りますと違ってこんなややこしい問題、票にならないから。メディアも関心がなく、いっさい報道しない。

8割の日本人がベッドの上で「溺死」させられる

──安楽死=医師を介した自殺。でもその前にチョイスがある、と。

そう、チョイスがある。皆さんに尊厳死のことを知ってほしい。

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尊厳死の議論が進まないのは、障害者団体、難病団体、宗教団体、弁護士会などの反対があるからです。でも患者さんの意思を尊重するというのは、古代ヒポクラテスの時代から医療の大原則。これは人権であり幸福追求権です。8割の日本人がベッドの上で最期まで点滴を受けて、溺死させられる。

溺死じゃなく枯れるということ、自然な脱水を容認する文化、そちらのほうが最期まで自分らしくあり続けられる。アナウンサーの小林麻央さんも最後まで食べて「愛してる」と言って死んだ。プロ野球の星野仙一さんもおせち料理を食べて、自分でトイレに行って最後まで自立して亡くなった。みな自宅で尊厳死してるんです。

──死というものが、いつの間にかシンプルじゃなくなった。

チベットでは医者が関わらなくても、翌朝死んで鳥に供えられたら、それで死です。日本は孤独死して3カ月経って腐乱して見つかっても、医者が解剖して検死してどこまでも医療が関わってくる。「延命治療お断り」とリビングウィルカード持って、お断りの入れ墨をして、Tシャツにまでプリントして延命治療を拒否する人もいるんです。それでも医療が入らなきゃいけない。法律がないから。

僕は治すほうの医者でもあります。ただ治すのも限界があって、治らないなら安楽に送ってあげることも医者の仕事だと思ってるんです。それは尊厳死なんです。安楽死を夢見る前に、まず足元を見てほしい。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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