スマホに隠れた「国勢調査員」という影の役割 何かしらもっともらしい犯罪の証拠は探れる

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アメリカにも国勢調査はもちろんある。憲法でアメリカ国勢調査が確立され、それを各州の公式な連邦集計として掲げた。これは下院の議員数を比例代表で決めるための根拠となる。これはいわばレビジョニスト的な原理ではあった。というのも植民地アメリカを支配したイギリス王政を含め、専制主義的政府は伝統的に、国勢調査を課税標準と、徴兵できる若者の数を見極めるために使ってきたからだ。抑圧のメカニズムだったものを民主主義のメカニズムへと作り替えたのは、アメリカ憲法の慧眼だった。

国勢調査は、公式には上院の管轄だけれど、10年ごとに実施するよう命令されている。これは1970年の第1回国勢調査以来、ほとんどのアメリカ国勢調査のデータ処理に必要な時間だった。この10年という処理時間は、1980年の国勢調査で短縮された。これは世界ではじめてコンピュータを活用した国勢調査だった(IBMが後にナチスドイツに売りつけたモデルのプロトタイプとなる)。計算機技術のおかげで処理時間は半分になった。

あらゆることを記憶し、何も容赦しない

デジタル技術はこうした計数をさらに高速化しただけじゃない──もはや国勢調査を過去のものにしつつある。大量監視はいまや果てしない国勢調査となり、郵送されるどんな調査票よりも大幅に危険なものとなっている。あらゆるデバイスは、電話からコンピュータまで、基本的にはみんながバックパックやポケットに持ち運ぶ、ミニチュアの国勢調査員なのだ──それもあらゆることを記憶し、何も容赦しない調査員だ。

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日本はぼくの原子の瞬間だった。まさにそのときぼくは、こうした新技術がどこに向かっているのかに気がついたのだ。そしてぼくの世代がここで介入しなければ、このエスカレーションは続く一方なのだということにも。やっと国民が抵抗を決意した頃には、そうした抵抗がもはや無意味になっているようならあまりに悲劇だ。この先の世代の世界では、監視はまれで、法的に正当化される状況だけに向けられるものではなくなる。彼らはその世界になじむしかない。その時には監視は、絶え間なく無差別な存在になる。常に聞き耳をたてる耳、常に見る目、眠ることなく永続的な記憶。

データ収集の遍在性が、保存の永続性と組み合わされば、あらゆる政府はスケープゴートに仕立てるべき人物や集団を選び、検索をかければいいだけになる──ぼくがNSAのファイルを検索したのと同じだ。必ず、何かしらもっともらしい犯罪の証拠は見つかってしまうのだ。

エドワード・スノーデン アメリカ国家安全保障局 (NSA) 、中央情報局 (CIA)元局員

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Edward Joseph Snowden

ノースカロライナ州エリザベスシティで生まれ、メリーランド州フォートミードの影で育つ。システムエンジニアとして訓練を積み、CIA職員となって、NSA契約業者として働く。その公共サービスのため、ライト・ライブリフッド賞、ドイツ告発者賞、真実表明ライデンアワー賞、国際人権連盟からのカール・フォン・オシエツキー・メダルなど無数の賞を受賞。現在は報道の自由財団理事会の議長を務める。

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