スノーデンが暴露した「大量監視システム」の罠

プライバシーは家財と同じく自分で守るもの

多少の手間をかけ、面倒を引き受けないとプライバシーは確保できない(写真:Graphs /PIXTA)
アメリカ司法省は、エドワード・スノーデンが秘密保持契約に違反したとして、スノーデンが2019年9月17日に出版した本『Permanent Record』の売り上げの差し押さえを求める民事訴訟を起こした。その一連の報道に対し、スノーデンは自身のTwitterで「アメリカ政府が訴訟を起こしてくれるなんて、まさにこれ以上ありえないほど本書の正当性を証明してくれるものだ」と声明を出した。
スノーデンがやったこと──それはアメリカ国家安全保障局によって、電話やネット上のほとんどあらゆる活動を完全に記録・保存できる「大量監視システム」が開発配備されている、という曝露だった。
9・11以後に暴走をはじめる諜報組織の中心部でキャリア形成を成し遂げた彼が突きとめた「真実」とは、いったい何だったのか? 何が彼を2013年の「曝露」へと至る決断へと迫らせたのか? ウィットと率直さに貫かれたこの回想録は、デジタル時代の古典となるべく運命づけられている。
2019年11月30日に発売された邦訳版『スノーデン 独白:消せない記録』の訳者である山形浩生氏による、特別寄稿を掲載する。

一大監視社会というディストピア

本書はEdward Snowden『Permanent Record』(2019) 全訳となる。エドワード・スノーデンの自伝だ。

おそらく多くの人は、スノーデンの活動のハイライト、つまり2013年に香港で行われた各種内部文書の矢継ぎ早のリークと、同時に行われたスノーデン本人の告白はすでにご存じだろう。

アメリカのNSAが、電話やネット上のほとんどあらゆる活動を完全に記録しており、しかも世界各国の諜報機関がそれに協力している、という曝露はこの訳者を含め、多くの人々にとって衝撃だった。産官 (そして一部は軍) が野合する一大監視社会というディストピアが、にわかに現実のものとなった。

ただし本書には、これまでのスノーデン関連の各種文献や報道に登場しなかったような、新しい諜報活動の実態は出ていない。本書に説明されているとおり、スノーデンは持ち出した資料をすべてジャーナリストたちに渡してしまい、自分の手持ちコピーは破棄したからだ。だから本書はむしろ、スノーデンという人物と、彼の言わば思想とその形成過程の話となる。

本書の面白さは、まずそれを行ったエドワード・スノーデン自身の話だ。1983年に生まれ、テレビゲームから入り、日本のアニメに触れつつインターネットに深入りする様子は、実にありきたりながらも微笑ましく、楽しい。

だがもう1つ面白いのは、NSAを筆頭にアメリカ──そして世界──の諜報業界が、大規模監視体制に突入したプロセスの部分だ。9・11を防げなかったトラウマ、そして事後対応もできずにパニックを起こして職場放棄してしまった後悔が、その後のNSAやCIAの異様な監視体制構築のきっかけとなり、それがアメリカの自由を見事に圧殺することで、皮肉にもウサマ=ビン゠ラディンたちの狙いを成功させてしまった。

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