《財務・会計講座》歴史的な金融・経済危機、その原因を作ったのはMBA教育か?
●「社会的企業価値」を定義する
ここで根源的な問いに立ち返りたい。経営者の使命とは何であろうか?そして、そもそも「会社」とは誰のもので、また何のために存在するのであろうか?法律的に解釈すれば会社は株主のものである。株主は株主総会を通じて選任した取締役陣に会社の経営を委任する。委任された経営者は株主に代わって会社を経営する。したがって、経営陣は株主に代わって株主の利益を最大化する義務を負っている。
ところが、株主の利害と経営者の利害は必ずしも一致しない。株主と経営者の利害を一致させるために編み出されたのが、先にも触れた「業績(株価)連動型報酬制度」である。業績が向上して株価が上がれば経営者の報酬も上がる。このメカニズムを通じて株主と経営者の利害を一致させようとするものである。株主も経営者も企業の長期的な成長とその結果である株価の継続的な上昇を志向していれば問題はないが、株主そして経営者とも短期の株価志向になると、この制度は大きな問題を引き起こす。株主は株価の短期的な上昇率によって経営者を評価し、経営者もこの株主の短期的な要求に応えることによって自己の報酬を積み増そうと行動することになる。
しかし、短期的に無理して上げた割高な株価は早晩崩壊することになる。米国でも短期的な値上がり益を追及するファンド投資家そして業績連動型報酬制度に踊らされた経営者の間で「株価至上主義」、「利益至上主義」がもてはやされ、また、マスコミも企業の利益にばかり注目することによって、そのような風潮を煽ってしまった。MBA教育の現場でも、「右肩上がりの時代、ビジネススクールでは緻密さよりも経営会議で同僚を説得するカリスマ性が重視」され、「企業がボロボロになっても、経営者が何百万ドルもの退職金を持ち去る文化が何故生まれたのか、そのような人材を供給したビジネススクールの責任」(米国ビジネスウィーク誌、2008年12月6日付け日本経済新聞より)を反省する声が聞かれる。
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