《財務・会計講座》歴史的な金融・経済危機、その原因を作ったのはMBA教育か?

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 企業の経営者は、株主だけでなく債権者(有利子負債の提供者)からも資金を預かり、その資金を投資し適正なリターンを返還する責任を持つことから、経営者は資本提供者(株主および有利子負債の提供者)から預かった資金を効率的に運営し、その価値を最大化する義務を負っているというのがファイナンス理論の基本的な考え方である。このため、経営者は投資家から預かった資金を実物資産(事業)に投資し、適切な事業運営を通じてそこから得られるキャッシュフローを最大化するとともに、キャッシュフローのリスクの大きさを把握しながら上手にこれをコントロールすることによって、キャッシュフローの現在価値を最大化していく。これが企業経営者に与えられた使命であると考える(企業価値=Σフリーキャシュフローn/(1+WACC)^n)。

 この考え方にたてば、株主価値は企業価値から有利子負債の提供者に返還される価値(元本および事前に設定された金利)を控除した後の残額であり、企業価値が最大化されれば株主価値も最大化されることになる。この場合、経営者が責任をもつのは、株主そして有利子負債の提供者といった資本提供者である。このモデルの問題点は資本効率追及のあまり財務レバレッジが高くなっていく傾向を助長することである。過度のレバレッジは今回の金融・経済危機の原因の一つであり、一旦、危機が発生すると企業の存続性に大きな負のインパクトをあたえることになる。

 企業には株主や有利子負債の提供者以外に広範な利害関係者(ステークホルダー)が存在し、それらステークホルダーを継続的に満足させられなければ企業は永年にわたって存続することはできない。企業は、経営者や従業員、商品やサービスを購入してくれえるユーザー、商品を製造するために必要な部品や原材料を納入してくれるベンダー群、企業や工場を取り巻く地域社会、そして民間企業では提供できないインフラを提供する政府・国家、これらのステークホルダーに対して企業として適正なリターンを継続的に返還していく必要がある。このように考えていくと、本来的な「企業の価値」とは、単に事業や資産が生み出すフリーキャッシュフローの現在価値(いわゆるファイナンス理論でいうところの企業価値)ではなく、ステークホルダー全員に返還することのできるキャッシュフローの現在価値ということになろう。

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