《財務・会計講座》歴史的な金融・経済危機、その原因を作ったのはMBA教育か?

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 モダン・ポートフォリオ理論に立脚したファイナンス理論が時代にそぐわなくなっているのであるから、時代にマッチした経営理論を開発していく必要があるという反省の弁である。『ブラック・スワン』(ダイヤモンド社)という書籍において、著者のナシーム・ニコラス・タレブ マサチューセッツ大学教授は、「確率分布の裾野に位置するような滅多に起こらないが、起こると甚大な損害をもたらす予期されていない危険」に言及しており、この書籍は今回の危機が顕在化するタイミングで出版され話題となったことは記憶に新しい(*1)。

(3)更に混乱に輪をかけたデリバティブの存在
 本来、本体である原資産のキャッシュフローのバラツキを軽減するために開発されたデリバティブが本体に成り代わり、結果的に尻尾が本体を振り回し、混乱を更に大きくした。「この世の中にローリスク・ハイリターンはありえない」、「何らかの競争優位性を持っていない限り勝ち続けることは不可能である」という極めて当たり前の原則を人々は忘れてしまっていたのではないか。デ゙リバティブは高度の金融理論モデルに立脚した複雑な数式で構成されており、パラメータをすこしいじるだけでその価値は大きく変化してしまう。本来デリバティブ取引はゼロサムゲームでありながら、パラメータをすこしいじるだけで取引の双方とも利益が出ると誤認させることが可能である。デ゙リバティブはリスク軽減のために有効な手段であるが、このツールをどう使うかという点で使い手の品格が問われる。

(4)他人任せのリスク評価
 複雑にサブプライムローンが組み込まれた証券のリスク評価は難しいが、十分な分析を行わずに安易な格付けを行った格付け機関、そしてその格付けを鵜呑みにし、リスクをとらずにリターンがとれるという幻想に踊った投資家。すべての資産がパニック的に売却されその実勢価格が同時にかつ急激に下落するという状況は、分散投資の効用を説く現代ポートフォリオ理論の想定外の出来事であり、格付けが機能不全に陥ってしまった。

*1 ファイナンス理論ではリターンは正規分布していると想定している。2008年3月までの過去5年間におけるTOPIX大型株の年間の投資収益率は9.42%、その標準偏差(σ)は4.31%であった。リターンが正規分布している場合、平均値から2.33σ以下のリターン(=9.42−4.31*2.33=−0.62%)が発生する確率は1%(つまり100年に1回)以下となる。一方、2009年3月までの30カ月のリターンは-26.71%と、この数値を大幅に下回る。100年に1度の金融・経済危機と称された所以である。しかしながら、この程度の危機(「この程度の」の定義にもよるが)は、過去100年間に少なくとも数回は起きている。その理由は、リターンは必ずしも正規分布していないという現実にある。現実の世界ではリターンは一方方向に裾野が長く広がる「ベキ分布」(「ベイシアン分布」)の形態をとっている。リスクは正確に定義すると、「狭義のリスク」(リターンのバラツキであり、リターンの標準偏差で表され、通常「ボラティリティ」と称されている)と「不確実性」(わからないこと)の2種類が含まれる。長い間、ファイナンス理論は、統計的に把握でき、したがってコントロール可能な「狭義のリスク」をコントロールすることに集中し、コントロールできない「不確実性」は理論化が難しいことから片目をつぶってきていたといえる。
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