日本人が驚く、米国発「新型デパート」の衝撃 Amazonにない「価値の複合化」が生き残りの鍵

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――今後の出店計画はどのように考えていますか。

今年の12月に、2号店をニューヨークに出店し、来年の早い時期にはテキサスのオースティンにも3号店を出す計画だ。来年は、約3カ月に1店舗のペースで出店し、その後はアメリカの全主要都市へと拡大していく予定だ。

そして、アジアや欧州への展開も検討している。デザインや製造技術の面で洗練されているアジアの優先度は非常に高く、ブランドが市場から学べることも多いだろう。中でも、質が高い顧客層がいる日本は面白い市場であると考えており、新興ブランドも進出に意欲的だ。

――既存の大手小売りプレイヤーによる模倣可能性について、どう考えていますか。

確かに、既存リテーラーの中には「D2Cブランド」をテナントに入れ始めている例もある。また、われわれの用いている技術や契約形態自体は模倣不可能ではない。

ただし、「製品のテストマーケティングに特化した売り場設計」や「従業員の育成」、そして「顧客とのやり取りから得たインサイトをブランドにフィードバックする仕組み」については、競合が同じ質のものを全国規模で実現するのは実質的に不可能であると考えている。

勝ち残りのカギは「価値のかけ算」にある

このように「Neighborhood Goods」は、リアル店舗に対して「モノを売る場」ではなく、「ブランドコミュニケーション」「テストマーケティングの場」「地域コミュニティーのハブ」といった「新しい価値」を組み合わせることで、「アマゾンエフェクト」にあえぐアメリカの小売業にイノベーションをもたらした

同じように、「店舗の価値定義」を改め、展示料やコンサルティング料で収益化するビジネスモデルは、「Neighborhood Goods」だけでなく、サンフランシスコ発のスタートアップ「b8ta」(ベータ:家電やデジタル関連のイノベーティブな製品の展示に特化したスタートアップ)のように増えつつある。

いつでもどこでもネットでモノが買える時代、リアル店舗にとっては、いかにモノを売る以外の「価値」を提供するかが大事となる。そして、その価値は1つではなく「Neighborhood Goods」のように「複数の価値」を組み合わせ、消費者のさまざまなライフシーンをサポートすることが重要なのだ。

「リアルの場でしか提供できない価値」をいかに「複数」組み合わせ、創造するか――。それが2030年、アパレル業界、小売業の勝ち残りを左右するカギである。

福田 稔 KEARNEYシニアパートナー

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ふくだ みのる / Minoru Fukuda

慶應義塾大学卒業、IESEビジネススクール経営学修士(MBA)修了。電通国際情報サービス、欧州系戦略コンサルを経て、A.T. カーニー入社。主に、アパレル・繊維、ラグジュアリー、化粧品、小売、飲料、ネットサービスなどのライフスタイル領域を中心に、戦略策定・ブランドマネジメント・グリーントランスフォーメーション・DX等のコンサルティングに従事。プライベートエクイティやスタートアップへの支援経験も豊富。経済産業省の産業構造審議会 繊維産業小委員会委員、繊維製品における資源循環システム検討会委員、ファッション未来研究会副座長。著書に『2030年アパレルの未来』『2040年アパレルの未来』(共に東洋経済新報社)がある。

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