27歳でがんを告知された人に生じた心境の激変 「正直悔しい、でも感謝して精一杯生きたい」

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岡田さんはしばらく考えていましたが、「いや、くじを引かなかったほうがいいとは思いませんね、うん、最悪のくじだとしても、引けたほうがいいかな」と答えられました。

しばらく考えたのち、「『普通だったら、もっと生きられるはずだった』と考えると悔しくてしょうがない。しかし、自分がこの世の中に生まれてきたということもいろいろな偶然が重なって起きたことだとも思う」とおっしゃいました。

岡田さんの絶望は大きかったですが、もともとの性格もあり、そこから物事をできるだけ前向きに捉えようともがいているようにも見えました。「正直悔しい、しかし、今生きられることに感謝して、精いっぱい生きたい」とおっしゃったのです。

「健康」とはいつ失われるかわからないものである

現在健康でいらっしゃる人にあえて伝えたいことがあります。みなさんも岡田さんのように突然がんの宣告をうけるかもしれませんし、あるいは事故や天災などに遭うことも絶対にないとは言えません。

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そのことに対する恐れで頭がいっぱいになってしまってもよくないですが、「健康はいつ失われるかわからないもの」であるし、「いつかは必ず失われるもの」という意識を心の片隅に持っていたいと私は思います。

なぜなら、「今日健康で1日をすごせることはありがたいこと」という感謝の気持ちが芽生えるからです。

家族や友人と楽しい時間をすごすこと、きれいな風景を見ること、おいしいご飯を食べること、これらは意識しないと当たり前のように通り過ぎていく時間かもしれませんが、こういう毎日がいつか失われるかもしれないと思うと、とってもいとおしく思えてくるわけです。この考えは古代ローマ人の「メメント・モリ(死を思え)」という教えともつながります。

清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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