「バカと思い込みの強い人」が世の中を変える 年齢やキャリアを重ねてもサードドアは開ける
「喪った日々の他にもう喪うものはない」
『サードドア』を読み終わったとき、「喪った日々の他にもう喪うものはない」という言葉を思い出しました。詩人の鮎川信夫の一節です。この本は、まさに若さの特権で描かれたものですね。僕自身の記憶とも重なって、バカというのは本当に向こう見ずなものだよなあと懐かしくもなりました。
著者で主人公のアレックス・バナヤン氏は、典型的なアメリカのサクセスストーリーの実現者そのものではありますが、一方で、今のアメリカが持っている大変なところも背負っている世代です。
アメリカでは『ジェインズヴィルの悲劇:ゼネラルモーターズ倒産と企業城下町の崩壊』(エイミー・ゴールドスタイン著・2019・創元社)という本に描かれているように、ゼネラルモーターズに勤めれば老後まで安泰で、高卒や短大卒の人間でも中間層として生きていけるという時代が終わってしまった。それがトランプ大統領の登場にもつながっています。
僕はもともと、平凡な庶民の生涯も、それはそれですばらしいものだと考えています。高卒や州立大学を出たノンエリートの勤労者にとっては、消防署や警察署、郵便局、あるいは製造業のいい会社に入れれば幸せだという世界観があるものなんですよ。アメリカは多様性がありますから、そういった勤労者の世界の一方で、アメリカンドリームを抱え込んで走っていく人もいる。それが、『サードドア』のアレックスですね。
ただ、このひたすら走っていく、18歳のアレックスの思い込みの強さは相当なものです。だって、客観性が何もないんですから。何か目的があったのかというと、「ビッグネームと会いたい」。これだけです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら