「バカと思い込みの強い人」が世の中を変える  

年齢やキャリアを重ねてもサードドアは開ける

ビル・ゲイツやスピルバーグなど数々のビッグネームにぶつかっていきますが、そこで概念化したいことがあるわけでもなく、ただ「会えば何か学べるだろう」という虫のよさがある。それで7年間にわたって走ってしまうなんて、これはちょっとすごいことだと思いましたね。

人は、ある程度功成り名を遂げると、なにか新しいことをやろうと思い立っても、なかなか手をあげにくくなりますよね。がむしゃらに挑戦しようとしても、できそうなことやよさそうなことを分別して、自然に勝手に選んじゃう。そうならないすばらしさ、価値の高さを、アレックスはこの本で体現しているんです。

ビッグネームの身になれば、もう中高年になった人間が、18歳の子どもと会ったところで、何か議論して学べることもないわけです。でも、仕方ないから会ってやるかと思って会ってみて、こいつは育ててみたいな、学習能力があるなと思うと、なにか語りかけてやる。ただ、それを受け手がきちんと理解できるかどうかは別だということも、うまく描かれていますね。

読者の体験の厚みが理解を深める

今思えば、ゲイツが話してくれたこの教訓に感謝すべきだった。でもそのとき僕は、ただ座ってこう考えていた。
“本当に……? それだけ? 聖杯はどこにあるんだ?”
なぜ僕はそこまでものわかりが悪かったのか、その理由に気づくのにしばらくかかった。僕はバズフィードで育った世代だ。ゲイツの深い話は、「世界一の大富豪の知られざる10の秘密」みたいなツイートや要約記事に載るような派手さがない。だから僕には、その場では価値がわからなかったのだ。(STEP5「サードドアを開けて」より)

アレックスは、当初、せっかく語ってもらった話をそれほど理解できていないんですよ。これは、彼にはまだ知識づけの厚みがないから、しょうがないことだと思います。

中沢孝夫(なかざわ たかお)/1944年生まれ。福井県立大学名誉教授。博士(経営学)。ものづくり論、中小企業論、人材育成論を専門とする。高校卒業後、郵便局勤務から全逓本部を経て、20年以上の社会人経験を経た後に45歳で立教大学法学部に入学を果たす。1993年同校卒業。1100社(そのうち100社は海外)の聞き取り調査を行っている。著書に『転職の前に―ーノンエリートのキャリアの活かし方』(ちくま新書)(撮影:尾形文繁)

僕は高卒で郵便局に入って6年現場で働き、その後は組合本部で20年働きました。そして、45歳で立教大学法学部に入った。大学では、本当にすばらしい講義がたくさんありましたよ。

ある先生は、「教育、宗教、思想というものには、共通点がある。学んだ人間が、『自分は他人が知らない正しい真実を手に入れた』と思い込むところがあり、それを人に伝えて教えたくなるという点だ」とおっしゃいました。

僕は、そういう人を社会経験上たくさん見てきましたから、ああ、なるほど、僕が学んできたマルクス主義もまさにその典型だと納得がいって、感銘を受けました。ところが、若い学生たちの評判はとても悪かった。先生の言っていることは、「なんのことやらわからない」とね。

どうしても、話す側の言葉の持っている厚みや背景知識と、聞く側の能力には、ズレがあるものなんです。読書だって、名作と呼ばれる本でも、わからない人にはわからない。福沢諭吉の『福翁自伝』も、20歳で読むのと、40歳で読むのとではまったく意味が異なります。

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