「ジョーカー俳優」実は最初出演を渋ったワケ ホアキン・フェニックスの葛藤と役者魂
オファーを受けるかどうか決めるにあたり、フェニックスは、自ら望んでオーディションをしてもらっている。突然笑い出してしまう症状を抱えるアーサーの、あの独特の笑いが自分にできるのか、フィリップス監督に確認してもらうためだ。
自分から言いだしたテストでフェニックスが苦しむのを見て、フィリップス監督は、「もういいよ、君はこんなことをやらなくてもいいんだ」と止めようとしたが、彼は「いや、これはやらないと。あなたに、僕の笑いが自然だと思ってもらえないことには、この役を引き受けるわけにはいかないんです」と主張したという。
あの「笑い」はどうやって生まれたのか
そもそも、フェニックスをこの役に引き込んだのも、笑いだった。フィリップス監督は、彼との最初のミーティングで、アーサーと同じような症状を持つ人々の動画をいくつか見せているのである。
「それは、それまで僕が持っていたジョーカーのイメージからほど遠いもので、奥に強い感情を見るような気がした。何かが中から噴き出そうとしているような。アーサーは抑圧されてきた人。それが笑いを通じて噴き出している。そこに僕はとても興味深いものを感じたんだ。同時にそれは最も不安な部分でもあった」と、フェニックスは筆者とのインタビューで振り返っている。笑いは、また、アーサーの変化を微妙な形で見える役割も果たした。
「みんなが気づくかどうかわからないが、最後のシーンでアーサーがタバコを吸いながら笑うところで、その笑いはそれまでと違う。バスの中や、コメディークラブで見せた笑いとは、違うんだ」と、フィリップス監督。最後になって、ようやくアーサーは“普通に”笑うのである。
「僕とホアキンは、普通の、自然な笑いと、症状の笑いの違いについて、相当に話し合ったんだよ」。フィリップス監督とフェニックスは、そのような話し合いを、あらゆることについて、延々と続けた。だが、典型的なリハーサルはやっておらず、現場でガチガチに指示をすることも避けている。フィリップス監督はもともと役者に自由を与えることを好むのだが、さらに「ホアキンみたいに才能のある役者を雇ったのに、『このドアから入ってきて、こんなふうに歩いて、ここに座ってくれ』なんて細かい指示をするなんて、ありえない」と思ったからだ。
「そうじゃなくて、彼には、ただ部屋を見せて、『さて、君は何をやってくれるかな?』と言う。それは、即興とはまた違う。ホアキンみたいな役者には、そういう緩いアプローチがベストだと思う」(フィリップス監督)
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