香港のデモ参加者は単なる「暴徒」ではない 米中を巻き添えにする「絶望の戦術」とは

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8月30日朝、香港警察は雨傘運動の指導者でもあった黄之鋒、周庭の両氏を拘束したが、夕方に釈放した(写真:AP/アフロ) 
林鄭月娥行政長官の条例撤回表明にかかわらず、香港ではデモが続き、警察との衝突も絶えない。だが、香港のデモ隊は単なる「暴徒」ではない。時に平和的に、時に暴力に訴えるデモは、効果が冷静に測定され、香港人の支持を得ている。

「逃亡犯条例」への反対から始まった香港の抗議運動は、6月9日の「103万人デモ」以来、大規模な抗議が毎週続けられ、すでに3カ月が経過した。9月4日には、林鄭月娥行政長官がついに条例の撤回を発表した。これを受けて香港でも一時株価が急上昇、日本でも各紙が翌朝トップで報じた。しかし、「撤回」表明後もデモが多発する状況は変わらない。

なかでも、「デモの暴力」は衝撃的である。本来香港では、2003年7月1日の「50万人デモ」が、「ゴミ箱一つ倒さなかった」と言われるほど、平和なデモを行う文化が定着していた。今回も、6月9日の「103万人デモ」や、同16日の「200万人デモ」など、大量の参加者を集めるデモは、ほぼ合法で平和裡に行われてきた。

しかし、長期化の過程で、こうした平和なデモと並行して、一部の者がためらいなく暴力行為を行うようになり、9月初めには、毎夜鉄道の駅が破壊されて使用不能になったり、路上での放火やバリケード設置などが行われ、警察と衝突したりする事態が、休日・平日を問わず毎日発生した。

本記事は『外交』Vol.57(10月1日発売)より一部を転載しています(書影をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

言うまでもないことであるが、公共施設の破壊は犯罪であり、迷惑行為でもあろう。しかし、これまた言うまでもないことであるが、そのような子どもでもわかる理屈は、暴力行為に及ぶデモ参加者も先刻承知である。「香港人がんばれ」と叫ぶような、香港への愛にあふれるはずの者たちが、なぜこのような「自傷行為」に当たる暴力に訴えるのか。

そして、それにもかかわらず、中央政府・香港政府の期待に反して、多くの市民がいまだに、この危険を増す、迷惑な抗議活動を支持する一方で人間の鎖や平和な行進などの、まったく性質の異なる運動も並行して続けられているのか、という大きな疑問が浮かぶ。

本稿は、こうした状況を論理的に説明することを試みる。知れば知るほどに、香港の危機は深刻であり、かつ長期化が見込まれる国際問題としての事態の拡大は避けられないと、筆者には感じられる。

残る「4つの要求」の意味

条約の 「撤回」で抗議活動が収まらない理由としてわかりやすいのは、デモ参加者には「5つの要求」があり、「撤回」はそのうちの1つにすぎないからである。香港民意研究所による「撤回」表明後の調査では、林鄭長官が「撤回」以外の要求に応じないことに反対と答えた者は65%であり、多数の市民の不満は収まっていない。

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