香港のデモ参加者は単なる「暴徒」ではない 米中を巻き添えにする「絶望の戦術」とは

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そして、デモ参加者が巻き込もうしているのは北京だけではない。アメリカは「香港政策法」という法律を持ち、香港に自治がないとアメリカが判断した場合、香港を中国と異なる経済体と見なす現在の政策を放棄し、中国と同じ扱いに変えることが可能である。これが発動されると、香港が国際金融センターとして機能することが難しくなり、中国経済にも相当な打撃が予想される。

さらに、アメリカ議会は間もなく「香港人権民主法案」を審議しようとしている。香港の人権を害する者のアメリカ入国拒否や資産凍結、さらには香港が普通選挙を実施しない場合の制裁なども盛り込まれる可能性がある。9月8日には、香港のアメリカ総領事館前で集結し、「香港人権民主法案」の可決をアメリカ議会に求めるデモが多くの人を集めた。大量の香港人が星条旗を振る光景は、北京にとってどれほど忌々しいものであるか。

経済重視のトランプ大統領は、当初香港問題への無関心をあらわにしていたが、事態の深刻化はアメリカの世論を動かし、大統領選を控える彼も無視できない状況を生んだ。香港はついにアメリカをも「死なばもろとも」に巻き込もうとしている。香港デモの行く末が、世界的な経済危機の発端となる可能性すら、われわれは考えなければならない。

デモだけでは終わらない

当初「逃亡犯条例」の撤回を求めて始まった香港のデモは、現在は体制への不信任を訴える「反乱」に転じている。国家の統治を否定する「反乱」が暴力を使うのはむしろ当然というのがデモ参加者の心理であろう。同時に、暴力は中国・アメリカを引きずり込むための、彼らの冷徹な計算の現れでもある。

「平和なデモはいいが、暴力はいけない」と説教しても意味をなさない。政府の鎮静化の試みは、暴力路線と平和路線の同盟に阻まれ、むしろ「香港人」の団結を強めさせている。

権威主義的な政府と、西欧型の自由な社会が共存してきた香港の「一国二制度」は、米中貿易戦争の下で、修復不能の対立になってしまった。このデモは国慶節(10月1日)や区議会議員選挙(11月24日)などの政治日程を控えて長期化するであろうし、やがてデモが収束しても、米中対立という新しい国際社会の構図の下で、香港政治のセンシティブな状態は続くであろう。

世界ではグローバル化の動揺が進んでいる。香港に示されているのは国際秩序の変化の深刻さである。ここから目を離すことはできない。

文/倉田徹(くらた とおる)立教大学教授。1975年生まれ。東京大学卒業、2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、 博士(学術)。香港日本国総領事館専門調査員、日本学術振興会特別研究員、 金沢大学准教授を経て現職。著書に『香港の過去・現在・未来』(編著)、『香港 中国と向き合う自由都市』(共著)など。
「外交」編集部

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世界の動きを見つめ、日本のビジョンを語る、国内唯一の隔月刊外交専門誌。 内外の筆者が問題の核心を鋭く分析する。発行元は外務省だが、内容は独立した編集委員会が責任をもって編集している。

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