学校での成績はまずまずの穂花ちゃんだったが、学校の成績と中学受験のスコアは別物だ。穂花ちゃんの入塾当初の模試の偏差値は30台。高校受験や大学受験では考えられないような数値だが、中学受験の場合、5年生の冬まで何も受験対策をしていなかった子のケースとしては、ありえない数字ではない。
入ったのは日能研。この連載でもたびたび登場しているが、クラスも席も成績順という塾だ。穂花ちゃんの通う校舎は1クラスの人数も多く、20人以上が在籍。学年は3クラス編成となっていた。王道の3年生2月から通っている子も多く、入塾テストの結果、穂花ちゃんは容赦なく1番下のクラスに所属することになった。
「すでに歴史などの勉強は終わっている時期でしたから、挽回させるためにと家庭教師もつけました」(多恵さん)
遅れを取り戻そうと頑張った結果だろうか、6年生になると順位はみるみる上がり、塾のクラスも真ん中あたりに。小学校でのクラス替えではいじめを考慮されてか、いじめていた集団とは違うクラスになった。
それでも、穂花ちゃんの心の傷が癒えたとはいえず、「受験をしてほかの学校に行く」という穂花ちゃんの気持ちは強く固まっていた。母親の多恵さんもそれを受け入れて応援した。「1度決めたことだから、最後まで頑張ってみよう」。親子でその気持ちを確かめ合い、受験勉強を続けていった。
「穂花だけに頑張らせてはいけない」。多恵さんは、娘の塾のテキストはもちろん、試験問題についても自ら解いて娘に伴走、励ましながら過ごす日々を送っていた。いじめで傷つくわが子と向き合い、時間を割いて寄り添う行動は親だからこそできる苦労といえるが、心労が絶えないことは容易に想像がつく。
だが、「それはご苦労でしたね」と話すこちらに対して母親の多恵さんは「つらかったけど、幸せでしたよ。娘と一緒に全力で取り組めましたから」と柔らかな笑みを浮かべた。このまま穏やかな日々が続くかと思いきや、いじめの矢はまた別の弓から放たれてしまう。
出る杭は打たれる
穂花ちゃんの猛進に気持ちをヤキモキさせ始めたのが、仕切り屋で有名なクラスメートの女子だった。どこの学校にもこうした児童は見受けられるが、彼女の自己中心的な仕切りぶりはもはや女子の中での独裁者のようだったという。
クラスの中で彼女が決めたことに異を唱える生徒はいない。例えば修学旅行の班決めは、すべてこの女子が独断で決定。穂花ちゃんは不運にもこの独裁女子と塾もクラスも同じだった。
いじめの対象というと、大人はとかくおとなしめの子を想像してしまうのだが、実際はそうとも限らない。穂花ちゃんは決して弱いタイプではなく、男子ともドッジボールで遊ぶほど活発な女の子だが、ささいなことをきっかけに、またもいじめられる側へとなってしまう。
「ねぇ、どこを受けるの? 今偏差値いくつ?」
独裁女子の穂花ちゃんへの視線がきつくなり出したのは、塾で穂花ちゃんが下のクラスからはい上がってきた頃からだ。偏差値や志望校を執拗に聞きかれ始めた。受験校や成績についてはあまり友達に話さないようにと、母親からアドバイスを受けていた穂花ちゃんは、はじめは聞き流すようにしていた。
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