今年の夏も街中では塾のバッグを肩にかけ、夏期講習に向かう子どもたちの姿が見られる。小6の受験生にとっては、この夏にどれだけ学力をつけられるかが、秋以降の志望校選択に影響するのは確かだ。
都立中高一貫校が軒並み高校募集停止を発表する中、ここ東京では中学受験を視野に入れる家庭も増えている。だが、子ども本人の意思で中学受験を始める家庭は少なく、親主導で進められることが多い。
「子どもには、最善の道を与えてやりたい」という親心はいつの時代も変わらないが、はたして、どれだけ子どもの意思は尊重されているのか。そんな中、連載を読んだという20代の男性から連絡が届いた。
メールには、親主導で中学受験に突き進んだものの、志望校には受からず、滑り止めの学校に入学するも、中学3年生の11月に自主退学したと書かれていた。
現在は、とある大手企業に勤務する男性。中3での退学とは、彼にいったい何が起こったのか。7月、男性の元を訪ねると、想像をはるかに超える事態が隠されていた。
友達と遊んだ記憶のない小学生時代
都内のホテルのロビーに現れた男性は、さわやかな笑顔であいさつをしてくれた。現在は海外赴任中だという男性は田中剛さん(仮名・20代)。一時帰国を利用して、この取材に応じてくれた。「私なんかの経験が役に立ちますかね」と言いながらも、話し始めると、次々と当時の様子を言葉にしてくれた。
九州の名家の生まれだった母の敏子さん(仮名)は、一人息子の教育に情熱を燃やしていた。「あなたはおじいちゃまと同じ東大に入るのよ」。幼い頃から口癖のように息子に話しかけていた。
「祖父は東大出身の元官僚でその後、政治家になりました。母は東大ではありませんでしたが、小学校から大学の付属校という人でした。僕を自分が歩んできたのと同じようにしたかったんだと思います」(剛さん)
まず挑まされたのが小学校のお受験。幼児教室にも通い、抽選も無事に通過したものの、結果は不合格。その後は、すぐに中学受験に向けてのレールが敷かれ始めたという。
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