多恵さんが取っておいた手紙を見せてもらうと、紙には割と大きめの字で冒頭こう書かれていた。
穂花ちゃんがその子たちに対して何か悪いことをした記憶はない。手紙には、上記の内容とともに仲良くしていた男子とのことをほのめかす文章も見られた。メッセージの意図は、もうその男子と仲良くするなというものだ。
渡してきた女子のうちの1人は、普段から穂花ちゃんが仲良くしている友達だったが、リーダー格の女子が怖いのか、かばうそぶりは見られない。その後、リーダー格の女子の行動はエスカレート。穂花ちゃんはクラスでも陰口をたたかれる日々が続いていった。
「自分は何も悪いことをしていない。自分が休む必要なんてない」と、穂花ちゃんは休まずに学校に通い続けた。
母親はもちろん手紙のことを学校に報告。机の中や下駄箱に置かれていたのならともかく、相手は手渡しで渡してきている。状況は明白だ。だが、先生に呼び出された生徒は「やっていない」の一点張り、相手の親に連絡をしたものの、主犯格の子の母親は「すみません。でも、うちの子はやっていないって言っているんです」と、なかなか譲らない状況が続いた。
見つけ出した答えは「学校を変える」
先生を交えた話し合いの末、やっとリーダー格の子どもの口から「ごめんなさい」の一言が聞かれた。だがこの翌日、穂花ちゃんがそのリーダー格の子から言われた言葉を聞いた母親は耳を疑った。
「私がなんで謝ったかわかる? 早く終わらせたいからだよ」
古来、言霊という考えがあるように、「ごめん」の言葉がその子自身の内面に宿り、気持ちを変化させてくれることもあるだろう。だが、このときの首謀者女子のこのコメントには残念ながらその様子は見えない。
なぜ、陰湿ないじめを続けてしまうのか。まるで本人すら気がつかない闇へと落ちてしまったかのように、その後も状況は改善されず、穂花ちゃんにとっては苦しい日々が続いていった。多恵さんは学校に再度報告、だが、担任からは「手紙くらいで心配しすぎだ」と言われたと話す。
「いじわるをするグループ以外の子で仲良くしてくれる友達がいたので、なんとかやっていけていたのだと思います」(多恵さん)。穂花ちゃんが「受験したい」と言い出したのはそんないざこざのあった頃だった。
「あの子たちと同じ学校には上がりたくない。お母さん、受験させて!」。休むことなく学校に通い続けて立ち向かっていた穂花ちゃんが見つけた1つの答えが「学校を変える」ということだったのだろう。5年生の冬。こうして穂花ちゃんは中学受験塾の門をたたくことになる。
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