売り上げが半減しても黒字化できる体質に 永守重信・日本電産社長に聞く

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ながもり・しげのぶ 1944年京都府生まれ。67年職業訓練大学校電気科卒。73年、28歳で日本電産を設立。80年代より積極的なM&A戦略を展開。著書に『奇跡の人材育成法』『情熱・熱意・執念の経営』など。緑色を好みコーポレートカラーに。同色のネクタイを1300本以上持つ。
大胆なM&A戦略をテコに急成長を遂げてきた日本電産。ここに来て世界経済危機のあおりを受け、2009年3月期決算は15期ぶりの減収に転じる見通しだ。昨年末には、東洋電機製造に対する買収提案を取り下げるなど、お家芸のM&A戦略にも陰りが見え始めた。しかし、数々の危機を乗り越えてきた永守重信社長だけに、大不況に立ちすくんでいるはずもない。早速、グループ傘下の140社に収益構造改革の大号令を発した。

雇用が天守閣

――今回の経済危機は過去の危機と比べてどのように違いますか。

今回は不況ではないですね。クラッシュや。言い換えると「地割れ」のような感覚です。

通常の不況は時間をかけながらやってくるので、その間に対策の手を打てるわけですよ。ところが、今回はハーフエコノミー(低価格品に需要が集中する現象)で売り上げがことごとく半分になり、襲ってくるスピードも速い。環境悪化があまりにも急だったので、世間が少し戸惑っているのではないでしょうか。

過去のケースだと、日本国内は悪いけれども欧州がいいとか、地域別や業種別に見てまだら模様でした。今回は世界のすべての業種がダメ。そして、ドメスティックではなしにグローバルで活躍している会社ほど損失を被っています。

――今の危機を乗り切る施策は。

ダブル・プロフィット・レシオ(以下、WPR)という手法を考えました。要するに売り上げが半分になっても黒字を出せる体質にしようやないか、と。売り上げのピーク時には10~11%の利益率を出していたのですが、今はそこから売り上げが50%も減ってしまった。ピークまで完全に戻るには、最悪のケースで2~3年かかるのではないか。それはまずいから、(ピーク時の売り上げから)75%の状態まで戻ったときには利益率10%を取り戻している。さらに売り上げが100%戻れば利益がその倍になっている。そのような経営体質に改善しているところです。

WPRというのは、そのための具体的な指針です。たとえば、今まで残業4時間でこなしていた仕事を定時で終えよう。そのためには無駄な会議はないかなどを全部検証していく。また、どこの下請けを支援するのかといった基準の策定についても指針を出しました。むやみやたらに決めたら、えらいことになるから。そういった具体的な統一基準を、グループ会社に全部指示したわけです。

――役員報酬の減額に加え、一般社員に対しても最大5%の賃金カットを早々と打ち出されましたね。

われわれは雇用が「天守閣」と言っているわけです。今回のようなケースでも、社員の雇用は守る。しかし、賃金は業績に応じてゼロから5%のカットを実施します、と。ただ従業員の賃金カットは10%が限界。それ以上はやってはいけないと思います。同時に資金不足で困る従業員に対して、会社が低利で貸し出す制度も設けました。

まずはWPRで仕入れコストを下げ、品質改善に取り組みます。次に生産性改善などに努力します。そして「最後の砦」が賃金カット。これが倒れてしまったら雇用の「天守閣」に来てしまう。幸いグループ会社は「全部ここで止めよう」と、一致協力してくれています。

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