売り上げが半減しても黒字化できる体質に 永守重信・日本電産社長に聞く

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――M&A戦略は不況期でも積極的に続けていく方針ですか。

こういう時期だからM&Aの提案はすごく増えているのです。ほとんどが再建型や救済型といったM&Aやね。しかし、対象企業の病状が中途半端じゃない。だから、これらを今引き受けたら大変なことになりかねません。

一方で、日本電産がこれから出ていこうとしている分野は非常に明快です。今までM&Aによりオーディオ、産業機器、事務機、家電などに進出しました。次は車載に踏み込み、その次は鉄道(=東洋電機への買収提案)、そして船舶、飛行機と考えています。要するにモーターを大量に使うところが対象です。

車載に関しては、実は大型案件がまとまりかかったのですが、このクラッシュで中断しました。これを買っていたら、今頃企業価値は半分になっていたところです。まだ運が残っていますわ(笑)。

社長は育成してできるものではない

――今後の成長戦略の武器となるのは、やはり省エネ性に優れたブラシレスモーターでしょうか。

日本電産はブラシレスモーターで世界トップメーカーですからね。世界60%のシェアを持っている。このブラシレスモーターはブラシ付きモーターの半分ほどしか電気を使いません。今の家電、たとえば冷蔵庫や洗濯機はどんどん技術革新が起きていますが、これには全部ブラシレスモーターが入っています。

ブラシレスモーターは世界マーケットのまだ20%しか普及していないのですよ。将来は100%に必ずなる。ブラシレスモーター搭載のエアコンは、日本では大半がそうですが、米国ではまだ1%か2%しかありません。

――後継者の育成について、どのように考えておられますか。

今の僕の経営スタイルというのは次の人では無理ですわ。集団指導体制にならなければね。一方で、社長は育成してできるものではないのですよ。交代を無理にすると、次々に社長が替わっていくことになりかねません。実は、ついこの間までは「売上高が1兆円になったら会長に」ともひそかに描いていました。が、今回のクラッシュに直面して、あと20年は続けようと考え直しました。周囲には「しばらく社長になる目はないぞ」と言っています(笑)。

トヨタ自動車では再び創業家の社長が就任されますが、僕は今こそそういうことをするべきだと思いますね。創業家がカムバックすることで「求心力」を保つ。社員や販売店などが不安を抱えている中で必要なのは、リーダーシップよりも求心力。あの人が言うのだからやむをえないと、納得してもらえる経営者が必要な時期ではないでしょうか。
(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2009年3月4日号)

鈴木 雅幸 東洋経済 記者

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すずき まさゆき / Masayuki Suzuki
2001年東洋経済新報社入社。2005年『週刊東洋経済』副編集長を経て、2008年7月~2010年9月、2012年4月~9月に同誌編集長を務めた。2012年10月証券部長、2013年10月メディア編集部長、2014年10月会社四季報編集部長。2015年10月デジタルメディア局東洋経済オンライン編集部長(編集局次長兼務)。2016年10月編集局長。2019年1月会社四季報センター長、2020年10月から報道センター長。
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梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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