日本酒にボタニカルを足すと、こんなにうまい 世界で広がる「SAKE革命」は洋食にも響く
パリ醸造所に向けて今年6月には、ベンチャーキャピタル(VC)や中島董商店などから総額1.5億円を調達した。プレゼンの達人である稲川なら順風満帆だったかと思いきや、「本当に資金調達はきつかった。日本酒業界にVCがどかんと投資する前例がなかったし、ネット系ベンチャーのようにKPI(重要業績評価指標)が計測できないので、説明に苦労した」。
何とか実現に至ったものの、準備を開始すると、数々の苦難が待ち受けていた。1月にフランスで物件探しを開始した稲川は、先方と契約の握手を交わしてサイン直前までこぎ着けた。しかし3カ月後、「別な相手に売却することになったから」と、ドタキャンされてしまったのだ。
タイミングを見計らったかのようにVCから物件について問い合わせが入り、「決まったけれどいろいろありまして」と説明すると、「それでは話が違う」と出資が白紙に戻りかけたこともある。再び奔走して物件を4月に契約したが、5月から工事に取りかかると土地が緩すぎて地盤工事が必要と判明し、急きょ追加費用1000万円が発生。工期が1カ月遅れてしまった。
「フランスで過ごした半年の間に、約束を守らない、すぐに弁護士沙汰になる、商習慣の違いなどを何度も経験した。僕自身の鋼の心臓作りには役に立った」と稲川は笑う。
欧州で高まっているクラフトビール熱
ここまでWAKAZEがフランスに懸けるのは、巨大市場が変調を来しているからにほかならない。フランスではワイン消費量が落ちる一方、クラフトビールの市場が伸び続けているからだ。欧州全域でクラフトビールのベンチャーが続々と増えており、究極的においしい酒を求めて、作り手と消費者の双方がいま盛り上がっている。
最終的にWAKAZEは株式上場を目指しているが、目線はもっと遠くへ向けられている。「将来的には数十兆円のワイン、ビール市場と並ぶ、日本酒の数兆円市場を作ることが目標。その頃には数千のブルワリー(醸造所)が立ち上がり、SAKEと呼ばれて、誰もが作って誰でも飲める世界になっている」(稲川)。
食の多様性が増す欧州市場の中でも、フランスは日本文化を受け入れる土壌がある。実際、WAKAZEが現地でクラウドファンディングを立ち上げたところ、百数十人の事前登録の申し込みがあった。欧州のビールメーカーからコラボレーションを持ち掛けられるなどすでに手応えを感じている。
WAKAZEはパリ醸造所が安定稼働すれば、現地スタッフを雇って日本酒造りを伝えることを考えているという。日本酒ベンチャーが現地から出てきたら、今度は自分たちが委託醸造しようとも決めている。日本酒を世界酒へと広げる第一歩が、この10月からフランスで動き出す。
(文中敬称略)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら