日本酒にボタニカルを足すと、こんなにうまい 世界で広がる「SAKE革命」は洋食にも響く

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自信を持って「おいしい!」と言えたのが、ユズとサンショウ、レモン、ショウガを発酵途中に加えたレシピだった。待ちきれない思いで委託醸造をお願いしたが、「これ、日本酒じゃないよね?」と酒蔵に指摘された。国税庁は「清酒(日本酒)」の原料を定めており、それ以外の原料が使われていると「その他の醸造酒」に分類される。委託先が新たに酒造免許を取得してくれたことで、ようやく生産・商品化にこぎつけた。

2018年3月に一般発売された「FONIA(フォニア)」シリーズは、日本で初めてボタニカル原料を使った醸造酒だ。樽熟成やボタニカルといったエッジの立った日本酒を看板に据えたことで、WAKAZEは2017年に1万本、2018年に3万本を売り上げ、徐々に知られる存在となっていった。

三軒茶屋の醸造所では毎月4種類の酒を仕込む。併設するバーからガラス越しに酒蔵を見学できる(撮影:今井康一)

「ORBIA」「FONIA」シリーズを筆頭に、WAKAZEは独自レシピ40を開発済みだ。精力的な開発の原動力となっているのが、2018年7月に立ち上げた「三軒茶屋醸造所」。わずか4.5坪の酒蔵には200リットルのタンク4本を備え、どぶろくやボタニカル酒といった「その他醸造酒」を自社で生産する。

ここで毎月4種類の醸造酒を開発し、年間48レシピを産み出している。醸造責任者の今井翔也は、群馬の酒蔵「聖酒造」の三男で、東京大学農学部を卒業。バイオテクノロジーに通じたWAKAZEの創業メンバーであり、パリと日本双方の開発を率いている。

今井は日本酒の味に幅を持たせるよう、あらゆる技術を駆使する。クエン酸や乳酸、リンゴ酸など、どういった酸味を引き出すのか、どの原料と組み合わせて味に複雑味を出せるか、研究を重ねる。そのために「多くの論文から知見を得て開発に取り入れたり、逆に作りたい味を逆算して論文を探して応用している」(稲川)。

醸造所にはバーを併設し、プロトタイプの醸造酒を客に飲んでもらい、店長から反応を聞いて、新たな酒造りにフィードバックしていく。垂直統合のモノ作りが、スピード感ある開発を可能にしている。

苦難の連続だったパリ醸造所の立ち上げ

三軒茶屋で開発した人気レシピは、山形の酒蔵に委託生産することで、生産量を増やしている。この2段階のサイクルが、フランスの酒蔵では一気通貫にできるようになる。2500リットルのタンク12本を備えることで、「稼動率を高めれば、年間20万本は生産できる。和食店には純米酒、ワインが飲まれる店なら樽熟成の日本酒、クラフトビールが飲まれるような店にはボタニカル酒など、チャネルに合わせて開発したい」(稲川)。

すでに欧州には数カ所の酒蔵があるが、新顔のWAKAZEが最大規模。得意とする柔軟な開発体制によって、フランスで受け入れられる日本酒の現地開発・生産にこだわっている。地場の原料を使った新たなレシピ開発にも意欲を燃やす。

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