日本酒にボタニカルを足すと、こんなにうまい 世界で広がる「SAKE革命」は洋食にも響く
口に含んだ瞬間、花の香りとさわやかな酸味が広がる。スッキリとした味わいは、一般的な日本酒のイメージとは一線を画す。日本酒の製造過程で花や果物、スパイスなどのボタニカル原料を加えるという“禁じ手”とも言える手法で、唯一無二の味を出している。
新機軸の日本酒を開発するのが、2016年1月設立のWAKAZE(ワカゼ)社。冒頭のボタニカル原料を用いた日本酒のほか、ワイン樽で熟成させた日本酒を販売するなど独自の酒造りにこだわる。WAKAZE社長の稲川琢磨(31)は「日本酒を世界酒に」というビジョンを掲げ、「ビールやワインのように洋食と合わせて楽しむ日本酒」にこだわる。会社設立3年目となる今年10月、フランス・パリ郊外に酒蔵をオープンさせる予定だ。
WAKAZEでは、南フランスのコメどころ、カマルグで収穫したコメを使い、現地の硬水で日本酒を仕込む。11月末には、パリで開催される権威あるワイン・テイスティング・イベント「グランド・テイスティング」で、パリ醸造所の蔵出し酒をお披露目する。著名なワイン評論家が主催するイベントに、日本酒メーカーが出展することは極めて異例だが、それだけWAKAZEが注目されている表れとも言える。
海外では日本酒ブームと言われるが、それはニッチな現象にすぎない。フランスの百貨店では日本酒の4合瓶が40ユーロ前後(1ユーロ118円として約4720円)で販売されているが、現地では日常的に10ユーロ(同約1180円)のワインが飲まれている。WAKAZEは現地生産によって、1瓶15ユーロ(約1770円)、1杯5ユーロ(約590円)程度で提供することを想定。価格だけでなく、現地生産だからこそ実現できる、フレッシュなおいしさを訴求するのが狙いだ。
出だしで開発につまづき、山形へ移住
「トライアンドエラーで成長してきたが、2020年が第2創業になる」と力を込める稲川。会社設立から3年目で、海外進出を果たすというロケットスタートを切ったWAKAZEだが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。
稲川が歩んできたのは絵に描いたようなエリート街道だ。慶應義塾大学理工学研究科で修士課程を修了する課程において、フランス政府の奨学金給費生として2年間、パリのエコール・サントラル・パリに留学。大学卒業後はボストンコンサルティング・グループ(ボスコン)で、経営コンサルタントとして働いていた。
いずれは起業するつもりだったという。実家は祖父の代からカメラ部品会社を営み、メイドインジャパンのモノ作りを支えてきた。しかし父親の代に入ると、スマートフォンの普及に伴って、受注量が落ち込んでいった。苦労する父親の背中を見ながら、「日本文化を生かしたモノ作りの領域で、消費者と向き合う仕事をしたい」。BtoBではなく、BtoCで勝負する、と決めていた。
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