早稲田大学卒業後、貿易事務の仕事や海外留学を経て、大手情報通信系企業の監査室で働いていた三宅さん。教育や人材育成に携わりたい思いがあり、転職を考えるように。そんな2014年、愛知で解体業の社長を務める友人から声をかけられた。
その企業はユニークな採用方針を持っていた。①引きこもり、②重大なトラウマがある、③前科前歴がある、に1つでも当てはまっていれば即採用という。うちの子の面倒を見てほしい、という親からの依頼も多く、そこでその友人は①~③に該当する人々を、入社後に育成する学校を作ろうと計画。講師として白羽の矢が立ったのが三宅さんだったのだ。
「『なんで私?』と聞いたら、あなたならできそうだから、と言うんですね。確かに、私が進もうと思っていた人材育成の領域でもある。その講師のお話が現実になったときのために、課題や生きづらさを抱えた方にたくさん話を聞いておこうと思ったんです」
まずは現状を知るため、元受刑者の支援団体や、自立援助ホームでボランティア活動に参加した。そこで、犯罪や非行歴のある人の社会復帰が困難な現実を知る。彼ら彼女らの中には、帰る場所がない人も少なくない。仕事もなかなか見つけられずに所持金が尽き、盗みを働くなど再犯をしてしまうケースが多々あった。
そんな境遇にある元受刑者の就労を支援すべく、三宅さんは2015年7月にヒューマン・コメディを設立、求人情報誌『Chance!!』を創刊したのだった。
実はかつて非行に走った過去がある三宅さん。「固い組織のなかにいるより、そういった人たちと一緒にいるほうが気楽なんですよね」と、笑顔で語る。
受け入れる企業に必要なこと
受刑者の就労支援をするにあたり、何より大事になるのは、受け入れる企業の姿勢だ。
入社が決まったとしても、労働環境が劣悪だったり、受け入れ態勢が整っていなかったりすれば、長く働き続けることはできない。実際に、自力で就職をした元受刑者の中には、残業代が支払われない、給料は最低賃金以下、狭い部屋で何人もが暮らす寮生活、という経験をした人が少なくないという。
そういったことがないよう、求人情報を掲載したいという依頼があった際、三宅さんはその企業の社長とできる限り面談を行っている。そしてさまざまな基準をもとに、問題ないと判断して初めて掲載をしている。
「まず質問させていただくのが、『どうして出所者を雇用したいと思うのですか?』ということ。単に人手不足だから、と感じた場合は申し訳ないのですが、やんわりとお断りしています。あとは、寮や社宅などの住居支援と、希望があった場合に身元引き受けができるかどうか。無一文の人も多いので、出所にあたり支度金の支給や給料の前貸しなどをしていただけるか。そんなことを最低限の条件としてお聞きします」
元受刑者と向き合い、支えていこうとする会社の風土も重要だという。仮に就労後に何らかのトラブルがあった場合、会社全体として解決しようという思いが、社長だけでなく全社員に浸透していないとなかなかうまくいかない。
受け入れたい気持ちはあるけど、何かあったら不安……そんな企業に対しては、「こちらも責任をとれないので、やめたほうがいいと思いますよ」と正直に伝えている。
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