山口絵理子が24→38歳の苦闘で掴んだ経営哲学

マザーハウスが社会貢献しながら成長する理由

「管理みたいなことをやるべきだと思いつつ、できなくて今に落ち着いているというのが正確かもしれません(笑)。人事や評価など、一生懸命考えていた時期もありましたが、戦略的思考は副社長の山崎大祐に任せています。

経営者は自分じゃないほうがいいかと考え、商品開発担当に徹しようと思ったこともあります。しかし今、その2つの肩書で居続けているのは、モノづくりのゴールは売ることであり、モノを売るとなったときに経営の要素は大事だということに気がついたからです」

よいものを作ったからといって売れるわけではなく、お客に届けるまでの動線をきれいに引くということがなければ、売り上げにはつながらない。例えば出店立地を決めたり、店に立つ人を雇ったり……。今までデザイナーとして手をつけない領域が、売れるか売れないかの要素を決定付けているといっても過言ではないだろう。

デザイナーの頑張りに報いるための経営

「デザイナーとして頑張れば頑張るほど、その頑張りが報われたいと思うと、経営は大事であると一層思うようになりました。だから自分も経営に責任を持ちたいと思うようになりました。魂を込めて手仕事で作ったあと、この世界観を体現できるショップはどんなショップか……などそこまでつなげられないと、絶対立ち上がりません」

ラストワンマイルまでイメージして作れるかどうか。今までのデザイナーの定義だと、そこまで手をつけられず、発信で終わってしまう。

欧州のデザイナーは、店作りの根本的な考え方や方法論を提示する「マーチャンダイジング」に口を出す人が多くなっている傾向があるが、日本は遅れているのが現状だ。経営にデザインを取り入れ、商材と流通・生産と販売が成り立っていないといけない中で、その橋渡し、全体調整を山口は担っている。

「どんな部署・ポジションであっても、経営とデザインのような対極にある思考を取り入れる必要があると思います。私は自分の立ち位置は偏っているという前提にいつも立っています。モノに集中するとすごくモノにこだわってしまうので、対極がどうしても見えなくなってしまい、気づいたら単価が高くなってしまい、誰も買わないモノになってしまうのです。

それは“商品”ではなく“作品”となってしまうという失敗がありました。店舗という現場に立ったとき、やはりガンガン売りたいと思うと、現場感を味わうことはとても重要であり、モノづくりに生かされます。そこの行き来をしながら戦略をまとめる。往復にこそ意味があり、どちらか1つではない。妥協を見つけるのではなく、掛け算がよいという考え方をしていきたいのです」

ロスがたくさん出る革や生地を活用し、何か新しい発想を生み出せないかを考え、手作業や人材育成、モノが売れることなどのスピード感から、適正店舗数の限界を理解し、利益の出る経営ができる。経営だけをしていると規模の拡大を前提としてしまい、目的と手段が入れ替わってしまうことはよくある。デザイナーの立場をも担うことで、プロセスを守った“大事にしているモノづくり”ができる。

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