山口絵理子が24→38歳の苦闘で掴んだ経営哲学 マザーハウスが社会貢献しながら成長する理由
2019年夏、“Febric of Freedom自由をまとう布で、あなたを自由に”をテーマに、素材や織りの開発から向き合って天然素材の新しい可能性を追求していく、“e.”(Erikoの“e”)というブランドが立ち上がった。
インドやネパールに自社・提携工房をもつ“e.”のメイン素材は、手紡ぎ手織り生地のカディである。手で1本1本紡がれた糸の「不均一性」は、生地の立体感という目に見える個性だけでなく、空気を含む暖かさや通気性という機能性を兼ね備えているのだとか。
「“e.”は、私自身の主観を強く押し出した、手仕事の極みをいくブランドです。マザーハウスが大衆向けにあるとしたら“e.”は限定された世界観で、この掛け算をしたらどうなるのかが、組織としても大きなチャレンジであり、今がまさに“総まとめ”をする時期であると思いました」
その組織のまとめ方について、山口は「組織と個人」という二項対立にも目を配る。組織が大きくなればなるほど、創業者の想いは組織の末端に届きにくくなるといわれる中で、山口がいちばん心掛けていることは「つねにフラットでいること」だと語る。
「『最近どう?』と、友達感覚でスタッフに話しかけます。私自身、リーダーの自覚はないので、社長という感じではないですね(笑)。店舗のスタッフと世間話をしながら、今何に困っているのか、生の声を聞いてコミュニケーションを取っています。その中で経営について見直したほうがいいと思うことはすぐにアクションを起こします」
会社が目指している方向性を、アクションや言葉でまめに共有することで、組織と個人の間にある溝はなくなっていく。組織の力に個人の力を掛け合わせて組織を動かしていくのは十分可能であると、山口は語っている。
モノは、国を超えて愛される可能性を持っている
最後に著書の言葉を借りて、「あなたの人生が1つの物語だとしたら、クライマックスはどこですか?」と聞いてみた。
「世界のいろんなものをフラットに“世界の土俵”にあげてみたいです」
山口の人生を懸けた実験のクライマックスは、近い将来に欧州で実施されるという。
「欧州で実験して『こんなコンセプトどう?』『こんな商品どう?』と途上国発のブランドを世界の土俵に立たせたとき、無視されるのか、興味を持ってくれるのか。その思考の転換を見てみたいです」
これまで彼女が進出してきたアジアの国々とは、まったく異なる強烈なプライドと伝統を持つ欧州への進出。それはそう簡単なことではないだろうが、途上国の素材を磨き上げ、職人たちと切磋琢磨して作られた商品が、欧州という新たな舞台で、世界の一流ブランドと肩を並べる日は、そう遠い未来ではないと信じている。(敬称略)
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