山口絵理子が24→38歳の苦闘で掴んだ経営哲学

マザーハウスが社会貢献しながら成長する理由

男と女、右と左、西と東、先進国と途上国、都市と農村など、世の中にはほとんどすべてのものごとに2つの軸、言葉を変えれば表と裏がある。これらは両極にあり、時に反発する。いわゆる二項対立だ。

例えば、目の前にAとBという対立する、まったく異なる2つの選択肢があるとする。それに対して山口は、「相反する2軸を掛け合わせて新しい道を創造する」というスタンスで臨む。

「その場合、私たちはどちらか一方を取るか、または中間地点としての選択肢Cを見出そうとしてきたと思う。選択肢Cは、多くの場合『バランスを取る』ことであり、ある意味では『妥協点』でもあり、ある意味では『最適解』と呼ばれることもある。
私が提示するサードウェイは、そうではない。AとBのいいところを組み合わせて、新しいものをつくる。そして、ときにAに寄ったり、Bに寄ったりしながらも、らせん階段をのぼるように上昇させていく」
(山口絵理子著・『Third Way(サードウェイ) 第3の道のつくり方』より)

山口はこれを「サードウェイ(第3の道)」と定義し、本書には山口が築き上げてきた哲学と実践的な思考法が、彼女らしい言葉で詰まっている。実際、山口はマザーハウスを経営するにあたって「先進国と途上国」「社会性とビジネス」「大量生産と手仕事」「経営とデザイン」などといった対極にあるものの、いずれか一方を選んでいない。

お客さんと作り手の両方に笑顔を

マザーハウスの事業計画を立てていた24歳の頃、山口はお客の笑顔と作り手の笑顔を同時発生させることを考えていた。それは「社会性とビジネスの両立」と言えるものだったが、周囲の経営者は「理想論だ」と切り捨てた。世間では「フェアトレード(※)でしょ? 援助の一環でしょ?」とも受け止められ、起業当初は取材を受けても「あなたのカテゴリーはなに?」とフィット感がなかったという。

(※)フェアトレード=発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを通じ、立場の弱い途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す運動

社会起業家の賞を数々受賞する中、自分の目指しているものが本当に伝わっているのか、ずっと疑問に思っていた。しかし今では、バングラデシュなど現地の職人たちは高い収入と充実した福利厚生という、最高水準の労働環境の中で働き、お客には「このバッグとても使いやすいね」という評価を得て、国内外に38店を構えたという事実がある。

「2つを同時に生かすことのメリットを掛け算しながらやってきたと思います。社会性とビジネスも本業でいかにソーシャルインパクトを出せるかということが、いちばんやりたかったことです」(撮影:梅谷 秀司)

「今は、お客さまの7割が店舗の通りすがりですが、以前は応援してくださる7割がお客さまでした。このように逆転しないとビジネスは成り立ちません。『モノで勝負して買ってもらう』ということが大事なのです。今では百貨店中心にお客さんができてきて、『バングラデシュでバッグが作られているなんて思わなかった』と言われるようになりました。

お客さまが笑顔になってくれることや、各地の工場を訪れるたびに職人さんが増えていて、『よい家に引っ越した、携帯電話を持つことができた』と話してくれています」

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