山口絵理子が24→38歳の苦闘で掴んだ経営哲学 マザーハウスが社会貢献しながら成長する理由
自社工場以外の生産者にも変化が見られる。
バッグの本当の競争力は“川上”にあるという山口の考えから、マザーハウスでは、「ジュート」という麻素材やレザーをオリジナルで素材から作っている。組み立てや加工が主体のバングラデシュでは、製造業で素材から作る作業はなかなかチャレンジングなことだ。
皮が正しく鞣(なめ)されることで高品質のバッグが仕上がり、原皮からちゃんと鞣すことを続けていくことで、素材工場のレベルが高くなっていく。その結果「バングラデシュの革がよくなった」というバイヤーの声をよく聞くようになったという。
「マザーハウスがタッグを組んでいる鞣し工場も、製造技術力が上がりました。これはずっと厳しく監視しつづけた結果なので、そこには貢献できたと思っています」
マザーハウスが変えたバングラデシュ
2006年当時、もともと麻袋だったジュートは斜陽産業とみなされ、現地では米作に注目が集まり、多くの農家が麻から米に切り替えていたが、当時の山口のジュートに対する印象はまるで違っていた。
ジュートの新しい可能性を見いだして「ジュートでバッグができる」という山口の発見の結果、今では、バングラデシュではジュートの価値が高騰しているのだとか。灯台下暗しとでも言うべきか、あまりにも身近すぎる宝物の魅力に当時、現地の人は気づかなかったのだ。
年間の半分以上、生産地で生活する山口は、自身が訪れた途上国の変化を目の当たりにしている。
「例えばバングラデシュは、2006年当初はアジア最貧国でしたが、今はアパレルの生産拠点となっていて、ファストファッションで大きく成長しています。一方でお隣のネパールはまったく成長しておらず、むしろ経済状態は悪化しています。
途上国と言っても大量生産のネクストチャイナになる国と、伝統的な仕事を続けている国があります。大量生産の国には、ネクストチャイナという目標があり、雇用するという意味では大きいインパクトはあります。しかしマザーハウスが追い求めてきたことは、ローカルの力を使いながら、経済的自立をすること。つまり、現地の生産物に付加価値をつけ、製造工程の技術力を上げ、それを“ブランド”として売ることです」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら