船橋:なるほどね。しかし、人口オーナス期に入った日本では、その戦略じゃもうだめだというわけですね。
小室:そうです。男性の長時間労働が、国にとっても、企業にとっても、家庭にとっても生産性を高める最適戦略だった時代の前提は、1990年代以降すべて失われました。筋力や体力がものをいう労働は減り、家事労働の負担は電化前に比べると非常に小さくなりました。日本の人件費は高騰しました。社会は多様化し、人々の欲求も価値観も多様化しています。
こうした状況になると、いかに「男女ともに活躍」させ、「短時間で成果」を上げ、「多様な人材を内包する」かが勝負になってくるのです。前時代的に長時間労働を美徳とし、それを社員に強いるような職場は敬遠されます。長時間労働を減らし、社員が働く環境を整えたほうが、優秀な人材が集まり会社自体の業績も向上します。
人口オーナス期に入ると、国家にとっても、長時間労働を失くすことは重要課題になります。労働力人口が不足して男性だけではなく女性が働かないと国の経済は成り立たなくなります。しかも、女性が子どもを生まないと人口は減り続けます。長時間労働の職場では女性も男性も仕事と子育てを両立できません。そこに介護が加わればなおさらです。だから育児や介護の事情があっても、男性も女性も労働力としてドロップアウトしないですむような労働環境の整備が重要になってくるのです。
働き方改革は経営戦略
小室:船橋さんはかつてどのような働き方をされていたのですか?
船橋:「夜討ち朝駆け」の長時間労働が美徳だった業界で長く働いてきました。小室さんの指摘は、私のような者には耳の痛いお話です。
ですけど、経営者を納得させるのは、並大抵のことではないのではないですか。
小室:はい。今、年間200回くらい講演していますが、その7割は企業の役員向けです。役員の皆さんは私が話を始める前は“腕組み、足組み、のけ反り”の姿勢で、「どうしてこんな女の講師の話を聞かなきゃいけないんだ」というような雰囲気で、講演は始まります。
しかし、先ほど申し上げた人口ボーナス期には、男性だけで均一な組織を作って長時間労働でガーっと攻めたのが大成功だった。それが最適戦略だったからこそ、今の日本があるんです、というお話をすると、「そうだろう? 俺たちが頑張ってきたことは、人口ボーナス期においては間違ってなかっただろう?」と、ちょっとお気持ちが成仏するんだと思うんです。
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