人口減だからこそ長時間労働が時代遅れの理由 小室淑恵「働き方改革は売上が上がる話だ」

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船橋:「最繁盛店」を閉めるなんて、なかなかできないですよね。決断した経営者もえらいですね。ただ、それほど人員手当てと人繰りが大変だということなんでしょうね。切羽詰まってこそ、変革のレバーも入るのですね。

小室:「事例20社」のどの企業にも起こったことは、長時間労働の文化のままだったら決して重要な役職に就けなかったような人たちが管理職に登用されるようになったことです。従来だと、どんなに現場で頑張っても、子育てや介護で長時間労働、とくに時間外対応ができない社員は、管理職にステップアップできないシステムでした。

役職は時間外対応ができる社員にしか任されない。それが日本の企業の文化でした。時間外対応で頑張ってきた、任命権のある上部の人たちが、同じように時間外も頑張れる人を登用し、そうでない人は門前払いしてきたのです。結果として、時間外対応ができるかできないかでキャリアが二分化され、24時間働く人にしか仕事へのモチベーションが保てないということが起きていました。

「働き方の門前払い」では業績は上がらない

そこを変えて、長時間労働の文化を改め、子育て中の女性であっても介護を抱えた男性であっても昇進できるような会社に変えたことで、それまでなら門前払いされていた人たちがモチベーションを失わずに管理職に登用されるようになり、多様な意見が戦わされたことで、今までなかった斬新な商品や販売戦略などのイノベーションが起こりました。

1000社コンサルティングしてきて、社員がさぼっていて業績が上がっていなかったという企業は1社もありません。「働き方の門前払い」をすることによって、一定の職位より上は、24時間型男性ばかりになり、それによって単一な発想でどんなに会議をやっても、従来の商品・サービスを超えるようなイノベーションが起きない、ということが起きていたのです。

つまり、「長時間労働をしないと勝てない」というふうに、長時間労働を勝つための手段だと思っていたら、それが「負けている原因」になっていた、ということなのです。意思決定層にまで、多様な人材が生き残るようになった。それによって、従来になかったイノベーションがそこいらじゅうの職場でおきるようになった。それが、業績が上がったいちばんの要因だと分析しています。

(後編に続く)

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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