人口減だからこそ長時間労働が時代遅れの理由 小室淑恵「働き方改革は売上が上がる話だ」

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船橋:成仏ですか。なるほど、そういう成仏作戦で身構えている心の筋肉をほぐすわけだ。彼らはみんな、日本のゴツゴツの企業戦士だもんね、あの時代の。

小室:そうなんです。ダイバーシティーや女性活躍、働き方改革の話から入ると、「俺たちを全否定するのか」というような雰囲気になって、耳を塞がれてしまいます。

ですから、役員の皆さんがやってこられたことは当時の人口構造(若者がたっぷりいて、高齢者がほとんどいない構造)においては大成功だったということを前提に、その戦略が成功した理由を分析して、1度しっかり承認することが大事です。でも、今はその時と人口構造上の背景が変わってしまった。大成功の遺産が消えてしまわないうちに、新しいやり方にシフトできるかどうかは皆さんの力量次第だ、というお話をすると、「聞こうじゃないの」という雰囲気になっていただけます。

そういう雰囲気ができたところで、ワーク・ライフバランスというのは、福利厚生でも、女性支援でもなく、経営戦略なのだというお話をします。「働き方改革」は、社会や国に求められて仕方なく取り組むことでは決してなく、働き方についての考え方を根本的に変えて、社員が働く環境を整えたほうが会社自体の業績があがる。今や、「やるかやらないか」ではなく「どう進めていくか」を考えるときに来ている――ということを、データを示して話すことにしています。

過去の日本のようにはできない

船橋:それにしても、今でこそ「働き方改革」が市民権を得て、残業を少なくしようという流れになっていますが、最初は、大変だったでしょう。

小室:はい。仕事を始めた当初は、講演やコンサルティングに出かけても、「女性活躍」という言葉を口にした瞬間に、経営者がアレルギーを感じるという状態でした。ですから、どんなに働き方の改革が女性の未来に関わっていると思っても、あえて、女性活躍という言葉は封印して、労働時間の問題を前面に押し出して、とくに、子育てではなく介護を話の中心に据え、介護と仕事の両立にフォーカスして、「このまま長時間労働を続けていては、この国は、今後、非常に大きな困難に直面する」というようなお話をしていました。介護であれば男女どちらも直面し、かつ、年齢の高い経営陣の男性も逃れることができない問題ですから、企業の意思決定をする人にニーズを感じていただけると思いました。

しかしながら、2006年に起業し、働き方改革のコンサルティングを始めた頃は、中国、韓国がまさに日本の過去である人口ボーナス期であり、長時間労働モデルで猛烈に経済成長していたことで、どうしてもそれが経営者の考え方に強い影響を与えました。経営者の方々から、「目の前のビルでサムスンが24時、25時まで明かりを付けているのに、こっちが明かりを消せるか」とよく言われました。

中国や韓国の人口構造は日本の過去のものであり、もうあの頃と同じことはできないと説明するのですが、では、どの国の働き方が参考になるのかというと、そのモデルがありません。移民がつねに流入するアメリカは、世界の中で唯一「つねに人口ボーナス期」である大変特殊な国ですし、人口構造が似ているヨーロッパと日本ではメンタリティがまったく違うので、参考にできることはありますが、あくまでパーツであって全体像ではありませんでした。

ですから、やろうとしていたことは、どこかから正解やモデルを持ってくることができない仕事だったんです。当初はそういう意識があったわけではありませんが、メンタリティーの近いアジアの国々が、今後日本とまったく同じ人口構造上の課題に突入しますから、参考にできるような先駆的な「働き方改革」を作っていかなければと思っています。

船橋:ところで、お仕事を始められたころ、「そんな事業が成立するのか」とよく言われたそうですね。残業を失くす運動なら、株式会社ではなくNPOだろうと。なぜ、あえて営利企業の株式会社を選択されたのですか。

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