人口減だからこそ長時間労働が時代遅れの理由 小室淑恵「働き方改革は売上が上がる話だ」

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小室:著書にも書きましたが、まず、重要なのは1960年代から1990年代までの人口が増え続けていた人口ボーナス期と、現在の人口が減少する人口オーナス期では働き方のモデルが違うということです。人口ボーナス期には黙っていても労働人口は増え続けますが、今は反対に減り続けています。

小室淑恵(こむろ よしえ)/株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。(財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問会議顧問安倍内閣産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会委員、文部科学省中央教育審議会委員、厚生労働省社会保障審議会年金部会委員、内閣府子ども・子育て会議委員、内閣府仕事と生活の調和専門調査会委員などを歴任。株式会社オンワードホールディングス社外取締役金沢工業大学客員教授アクセンチュア株式会社インクルージョン&ダイバーシティ・アドバイザリー・ボード朝日生命保険相互会社評議員。『働き方改革生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書は約30冊(撮影:梅谷秀司)

男性が外で長時間働いて、女性が専業主婦として家庭を守るという社会モデルは、良しあしは別として、人口ボーナス期には理にかなった戦略でした。理由は3つあります。

当時の産業の中心は重工業です。工場では機械化や自動化はそれほど進んでいませんから、リアルな筋肉を使う肉体労働が重工業のエンジンです。間違いなく男性のほうが適性の高い労働でした。一方、家庭でも洗濯機や冷蔵庫、掃除機などはさほど普及しておらず、家事労働は重労働でした。そのような状況では、体力のある男性が外で働けるだけ働いて家事労働は女性が担うのが、家庭にとって生産性を高める、つまり、所得を増やす最適戦略だったのです。それが第1の理由です。

企業にとっても生産性を高める最適戦略でした。その前提には、日本の人件費が安かったことがあります。どんなに残業手当を支払っても、それが利益を上回ることは起きません。一方、消費者は初めての洗濯機や冷蔵庫、テレビをまだ手にしていない時代ですから需要は大きく、「残業はほどほどにして明日納品」などとのんきなことを言っていては、同業他社にすぐに顧客を奪われてしまいます。つまり、24時間稼働して、最初の1個を届けたほうが勝つという国盗り合戦です。長時間労働が成果に直結する時代だったのです。これが2つ目の理由です。

3つ目の理由は、高度経済成長期の消費者は隣の人が持っているモノを早く自分も手に入れたいという時代だったからです。消費者の欲求はまだ多様化していませんでした。同じものを大量に生産するのが最適戦略です。そのため企業の組織にも多様性は必要なく、「右向け右」の号令に従順な人がいちばんの戦力でした。均一な組織を作るのに最も有効に作用したのが長時間労働と転勤制度です。「文句があるなら転勤だよ」という圧力でふるいにかけて、長時間労働の環境にも耐え抜く均一な人だけを残していくわけです。これを繰り返すことで、元は均一でなかった人も、いつの間にか均一になっていく、そして忠誠心の高い組織を作るという効果もありました。

働く環境を整えたほうが優秀な人材が集まる

船橋:実にリアルな分析ですね。

小室:日本は人口ボーナス期に、男性が外で長時間労働に勤しみ女性が家庭を守るというこの戦略は、他国には例を見ないほどうまく機能したと思います。同じボーナス期で比較すると、日本は中国の3倍の利益を上げたという分析があるほどです。

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