「水商売の人専用」の不動産屋の大きすぎる意義 ワケありの人にも寄り添う歌舞伎町の店

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みずべやの代表である岡さん。物腰柔らかだ(撮影:尾形文繁)

「ほかの不動産屋で申し込んだけれど、『水商売の人はお断り』『保証人がいないとダメ』などの理由で断られてしまう方がたくさん来ます。

また水商売をしている方のなかには、保険証を持っていない人もいる。内見を済ませ、申込段階になって『保険証がいります』『持っていないんですか?』とダメになってしまうことも。お客さんも不動産屋も時間の無駄ですよね。なので、僕らは最初にお客さんの状況を確認し、問題なく借りられる物件を提案しています」

初期費用分のお金と、家賃を支払っていける貯金や収入証明があれば、一軒も紹介できないということは基本的にない。もちろん状況によっては、物件の選択肢が減ったり、条件で妥協してもらったりすることはあるものの、ほとんどの人が無事に部屋を借りられているそうだ。

実は岡さん自身も、歌舞伎町で水商売をしていた経験がある。地方で生まれた岡さんは、20歳のときに上京。原宿のアパレルショップでの勤務を経て、21歳で新宿へ移り住み、夜の世界に飛び込んだ。

「当時、部屋を借りるために不動産屋さんへ行くと、対応が悪くて。水商売をしているから、弱者扱いされていたのかなと思います。初期費用によくわからない金額が入っていたこともありました。知識がないから、言われるままに支払っていたのですが、サービス業としてどうなんだろうという思いはずっとありましたね」

その後、仲のよかったキャバクラ嬢から不動産屋の社長を紹介され、営業として就職した。当時25歳だった岡さん。水商売はいつまでも続けられる仕事でない、という将来への不安も転職のきっかけだった。

経験を積んだ後、キャリアアップのためにほかの不動産屋へ転職。扱うのは、賃料30万円などの高級物件が中心だった。お客さんもハイクラス層が多く、水商売の世界で生きてきた岡さんは居心地の悪さを感じるように。営業成績はよかったものの、慣れ親しんだ世界の方を相手に、不動産業をしたい気持ちが湧いてきた。

そして2017年4月、みずべやを西新宿で開業。水商売関係者からのニーズは高かったが、歌舞伎町からは徒歩10分ほどかかる。歌舞伎町にあると助かる、といったお客様の声に応えるべく、2018年9月、歓楽街のど真ん中に2店舗目をオープンさせたのだった。

お客さんとのやり取りは…

午前11時少し前。20代前半と思われる女性客が来店した。茶色の髪に白のミニスカート、赤いヒール。取材を一時中断し、岡さんは接客に回る。

「書類を持ってきたんですけど」

「わざわざありがとうございます」

「書き方がわからなかったところがあって、ここで書いてもいいですか?」

「大丈夫ですよ。どこがわからなかったですか?」

「ええと、こことここです。あと、住民票がいるって聞いたんですけど、これで大丈夫ですか?」

「はい、結構です。ここの書き方はですね……」

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