「水商売の人専用」の不動産屋の大きすぎる意義 ワケありの人にも寄り添う歌舞伎町の店

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ほかにもいくつかのやり取りを、岡さんは終始、丁寧な言葉遣いと笑顔で行う。手続きが終わると、女性客をお店の外まで見送る。年下の客に対しても、ぞんざいな接客をされた自分自身の経験から、丁寧な接客を心がけているという岡さん。そういった姿勢が信頼されるのか、女性客からは物件のことだけでなく、恋愛相談をされることもしばしばなのだと、再び取材に戻った岡さんは笑顔を見せた。

水商売の方は、偏見の目で見られることも少なくない。実は筆者も新宿でバーを経営しているのだが、同業者はよくも悪くも自由な人が多い印象だ。では実際、お客さんとして接する水商売の方は、どのような特徴や傾向があるのだろうか。

階段の壁にはお客さんの高評価がびっしり(撮影:尾形文繁)

「一般の方は時間を守るし、遅刻する場合は連絡をいただけるじゃないですか。水商売の方は、遅刻が多いですね(笑)。電話をしたら、『これから行きます』と返事をするけど、そのまま来ないことも。二日酔いだから行けません、ということもあります。朝まで働いて、酔っぱらったままお店に来て、カウンターで寝ちゃう人もいますね」

ほかにも、初期費用を用意できなかったのか、「財布をなくしちゃいまして……」とあっけからんと言う人もいたそう。岡さんもかつては、「もう来ないでいいですよ」「僕も忙しいんで」と突き放していたものの、現在はとことん向き合うスタンスだという。

「一般の方と比べたら、ルーズな人が多いかもしれないけど、包み込んであげるのも僕たちの仕事だと思っています。いちいち怒ってたら持ちませんから(笑)。来店予約をして、10回連続でドタキャンした人もいましたが、こちらが『また次回お待ちしています』と10回言えばいいだけのこと。

それで契約いただけるかもしれませんし、お客さんも(水商売に理解の薄いほかの不動産屋に当たらず)スムーズな部屋探しができるので、無駄な時間や嫌な思いをすることが減ると思います」

契約終了後に、お客さんの店に行く理由

物件の契約が終わったら、みずべやは仲介手数料をいただく。ビジネスとしてはそこで終了だが、その後も交流が続くことがあるのも水商売ならでは。岡さんが社員と飲みに行くときなど、お客さんが働いているキャバクラなどに寄って、指名することもあるという。

「どうせ飲みに行くなら、少しでも売り上げに貢献できればとは思いますね。そんなにしょっちゅうではないですし、シャンパンを開けるとか豪遊もしないですけど、ちょっとした気持ちとして。うちの宣伝にもなりますしね。また部屋探しをするときに来てくれるかもしれないし、友達を紹介してくれるかもしれない。Win-Winですよね」

みずべやの店内やHPでは、お客さんの声を公開しているが、利用したきっかけは実際に「紹介」というケースが少なくない。元々ニーズがあった業態に加え、上記のような計らいによって、みずべやの存在は必要としている方へ着実に広まりつつあるのだ。

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