巨大電波望遠鏡を支える手作りの超伝導素子

宇宙の始まりを探るALMAプロジェクト

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素子のサイズはきわめて小さい

話を元に戻す。歴史ある国立天文台が進めている新たなプロジェクトが、ALMA望遠鏡だ。なかでもバンド10(787~950ギガヘルツ)の帯域への挑戦は世界で初めて。もともと、空気中の水蒸気に吸収されやすい周波数帯域であることに加え、加工も問題になる。開発を担当したのは、国立天文台先端技術センターの鵜澤佳徳准教授のグループだ。

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長さ2ミリの超伝導素子がキモ

「波長が短い分、素子のサイズが小さくなり、加工が難しくなります」と鵜澤准教授。キモは、電波をデータへ変える超伝導素子だ。専門的に言えば超伝導ミクサというその素子のサイズは、長さ2ミリ。130億光年遠くの物質が発する電波は、最終的にはこの吹けば飛ぶような小さな素子が受け止めるのだ。

この素子の役割は、宇宙からやってきた電波の周波数を、扱いやすい周波数に変換することだ。こうやってデータを得るスーパーへテロダインという方式は、実はボクたちの身近にもある。テレビやラジオの受信機でも、この方式が使われているのだ。

細かい部品を手作り

超伝導ミクサを見せてもらった。小さな薄いケースを開くと、碁盤のような目が切ってある。一辺は5ミリくらいだろうか。その5×5のスペースに、超伝導ミクサが並んでいる。500円玉のゼロの溝に載せたら、溶け込んでしまいそうであり、くしゃみをしたら飛んで行ってしまいそうだ。素手では扱えないので、ピンセットでつまむ。顕微鏡でのぞき込みながら、周りの回路に組み込むことになる。不器用で気が短い人には向かない作業だ。

バンド10ではサイズに加え、材料にも問題があった。あまりに周波数が高いため、バンド9までに使われるのと同じ超伝導材料では、性能が不十分なのだ。開発は、適切な超伝導材料作りから始まった。具体的には、バンド9までに使ってきたニオブという素材に、窒素を混ぜた。より短い波長に対応するため窒素を混ぜるというのは、LEDなどの素材と共通だ。

 完成したバンド10用の小さな超伝導ミクサは、高さ50センチの円柱状のカートリッジに、電波を受け入れるホーンや伝える導波管、分ける分波器やそれらを氷点下269℃まで冷やす装置などと一緒に組み込まれる。冷やすのは、ノイズを減らすためだ。この状態で30年間は働き続けてもらわないとならない。

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左からバンド10受信機の開発を担当した鵜澤佳徳さん、ALMA望遠鏡の広報を担当する平松正顕さん、バンド4とバンド8の開発を担当した関本裕太郎さん

バンド4と8の受信機のカートリッジも、ほぼ同じサイズだ。こちらを担当したのは関本裕太郎准教授のグループだ。周波数が低くても、簡単なわけではない。その分、高い水準を求められる。

「何でもオーダーメイドの手作りです。ほかに用途がないので、メーカーが量産するわけではないので」

 そうなのだ。だから、すべては"メイド・イン・国立天文台"。ここは日本随一の研究機関であるが、それと同時に製造機関、つまりメーカーでもあるのだ。

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