日本の「医療費抑制論」で見落とされている視点 どんな政策が医療費を下げるかの研究がない

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津川:終末期医療は価値観とか尊厳に関する話なのですが、これもまた、日本ではお金の話になりがちです。健康保険制度を維持するために、透析を受けざるをえなくなった患者の治療費は自己負担にせよと言った著名人の発言が物議を醸しましたが、このような乱暴な議論をしている国はほかには聞いたことがありません。

本来、年齢は問題ではありません。100歳でも元気で毎日おいしくご飯を食べて散歩している人もいれば、50歳でも(本人の希望に反して)寝たきりで胃瘻が入っている人もいます。あなたは100歳だからこれ以上医療費はかけられませんというのは、どう考えても国の医療制度のあり方としてはおかしいのです。

アメリカでは、現在、認知症に関する研究に相当の研究費が投じられています。つまり、将来起こることがわかっている危機に対して、できるだけ前もって準備し、対処しようとしているというわけです。

日本ももちろん財源の問題は重要ですが、このように先回りした投資も重要ではないかと思います。政策研究についても同様で、42兆円もの医療費を支出しながら、その0.1%すらどのような医療政策が医療費を下げることに貢献するかを明らかにするような研究は行われていない。

約20%の医療行為が健康を改善する効果がないといわれているので、きちんとしたエビデンス(科学的根拠)があれば、医療費を数%下げるというのはそれほど難しい話ではないはずです。しかし、日本はこうしたエビデンスを「つくる」ための投資をしていないということが、最大の問題だと私は考えています。

佐藤:日本はエビデンスのフォロワーになってしまいがちです。トライアンドエラーも込みでエビデンスをつくることよりも、最初からたった1つの正解があるという幻想が強い。

日本の医療には課題もあるが、希望もある

津川:非常に重要な指摘です。エビデンスを「つくる」プロセスが非常に重要なのです。アメリカにおける医療保険制度改革(いわゆる「オバマケア」)を主導したオバマ大統領は、改革の実行にあたり、PDCAサイクルをまわすことの重要性を強調していました。最初からうまくいく政策はないからです。

エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(Evidence-Based Policy Making: EBPM)には、政策のインパクトの評価やエビデンスを「つくる」プロセスも含まれているのです。

菅原一輝(すがわら かずき)/慶應義塾大学総合政策学部に在学中。進学のため、秋田県から上京し、地方と都市の医療サービスの質・量の違いに驚愕し、入学後に医療・社会保障政策を専攻。現在は社会関係資本と健康の関係に関心を持っている(撮影:今井康一)

菅原:将来の医療はどのようになっていくと予想しますか。

佐藤:人生100年時代における医療との関わりはどのようにあるべきかと考えると、これからの医療機関は「病気になったら行く」場所ではなくなってくるということです。日常的に関わりながら、医師や看護師とコミュニケーションを取りながら医療サービスを選択していく時代が来ると思います。

医師は病気を治すだけでなく、私たちのデータを把握し、日常的に私たちの健康状態について指導・助言してくれる専門家となるのではないでしょうか。それを予想するだけでなく、人生100年時代に合わせた医療のあり方を模索していきたいと思っています。

津川:日本は、医療費を社会の負担と捉えているような気がします。後ろ向きにどう撤退するかを考えているように見えます。確かに残された時間が長いわけではありませんが、イノベーションを起こし、エビデンスをつくり、打ち手も多くある。

財源をどうするかという議論だけでなく、大きな課題ということは大きなチャンスでもあるわけですから、どうやってこの問題解決しようかを前向きに考えることが重要だと思います。だから、私は日本の医療には課題もあるが、希望もあると思っています。

中室 牧子 慶應義塾大学総合政策学部教授、東京財団政策研究所研究主幹

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なかむろ まきこ / Makiko Nakamuro

1998年慶應義塾大学卒業。アメリカ・ニューヨーク市のコロンビア大学で博士号を取得(Ph.D)。日本銀行や世界銀行での実務経験を経て、2013年から慶應義塾大学総合政策学部准教授に就任し、現在に至る。専門は教育を経済学的な手法で分析する「教育経済学」。

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