日本の「医療費抑制論」で見落とされている視点 どんな政策が医療費を下げるかの研究がない

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山本 雄士(以下、山本):「価格設定」の発想を変える必要があると思います。例えば、薬の価格設定は1錠いくらで一括払いという発想に強く縛られているわけです。しかし、もしオプジーボを使って寿命が5年延びることが期待できるなら、5年間でそのコストを回収できるような価格設定と支払い方にするということも考えられます。

山本雄士(やまもと ゆうじ)/ミナケア代表取締役社長。東京大学医学部卒業後、同付属病院、都立病院などで循環器内科などに従事。ハーバード大学ビジネススクールを修了(MBA)。健康を守り、育てる(健康に投資する)医療として「投資型医療」を提唱し、医療の新たなビジネスモデルと産業を創造している(撮影:今井康一)

また、オプジーボの開発にかかった費用に対して一定の利益が確保できるところまで販売できたら、あとは原価払いでよいというふうにすることもできる。そうすれば高価な治療薬を用いること、企業の利益を確保してさらなる投資や開発を促すこと、医療費を抑制することが一定のバランスの中で可能になるでしょう。

しかし、現在の日本には、製薬業界も含めた医療の技術開発産業の事業モデルを理解したうえで治療薬の価格を交渉、設定しようという発想が足りない。結局、1錠いくらで一括払いのやり方に終始し、その単価の根拠も開発にかかった費用の積み上げか海外価格からの導出でしかありません。

価格設定の問題だけでなく、今の健康保険の形、つまり医療のお金の集め方、払い方を見直す必要があります。今の仕組みは、万が一病気になったら治療費を分担しようという、いわゆる損害保険みたいな考え方です。これは、みんなが病院に行けるわけではなかった時代の発想なんですが、今の時代は死ぬまでに一度も病院に行かない人のほうが珍しい。

つまり、万が一への防衛策ではなく、必ず起きるけどいつかわからないことへの防衛策じゃないといけないんですよね。これは保険のタイプとしては生命保険の発想になるわけです。こう考えたときに、医療に使うお金の集め方が今のような形でいいのかは再度検討すべきです。

医療費削減より前に「どんな医療が必要か」

菅原:医療費削減の話が中心になってきましたが、津川さんのご指摘にもあったように、医療費削減の観点でのみ議論することが行きすぎると、結局何もやらないほうがよいということになってしまい、国民の健康や幸福が置き去りになってしまいそうで不安です。

佐藤啓(さとう けい)/参議院議員(自由民主党)。東京大学経済学部卒業後、カーネギーメロン大学大学院(MPM)、南カリフォルニア大学大学院(LL.M.)を修了。社会全体で予防・健康づくりを強化することで、①個人の健康増進、 ②社会保障の担い手の増加、③ヘルスケア産業の育成を同時に実現する、3方良しの「明るい社会保障改革」を推進している(撮影:今井康一)

佐藤:そのとおりです。医療の問題を、医療費の観点でのみ議論することが行きすぎてはならないと感じます。現在の政府や自民党内の議論においては、予防医療が医療費の削減に貢献するのかどうかということに重きが置かれすぎている気がします。

山本:財源が厳しいため、どうしても医療費削減が前面に出てきてしまう。そもそも、「どんな医療が必要か」という基本的な認識を整理することが重要です。

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