日本の「医療費抑制論」で見落とされている視点 どんな政策が医療費を下げるかの研究がない

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佐藤:病院を減らし、高額医療を保険適用から外せば、医療費は削減されますが、国民がそれを求めていないことは明らかです。まず、国民の健康を第一に考え、何が必要かということに立ち戻る必要があります。

社会保障財政の持続性に関しては、負担と給付を見直すことは重要ですが、私たちの「明るい社会保障改革研究会」で議論していることは、「支える側」と「支えられる側」のバランスの改善が重要だということです。

人生100年時代といいながら、60歳で定年退職してそれ以降「支えられる側」になるというのはさすがに早すぎます。「支える側」を増やすためにも、予防や健康づくりは重要でしょう。企業におけるさまざまな健康経営の取り組みは、働いている人の生産性を上げるだけでなく、その人の退職後の健康基盤をつくるという面もあります。

表裏の関係の「予防」と「終末期医療」

山本:医療を「バリュー(価値)」ではなく、「コスト(費用)」で見ることの問題がまさにここにあります。重要なことは、人々の健康を長く保ち、それによって社会をどう活性化するかという人生100年の時代において、医療をどう役に立てるかという見方をする必要があります。それが「医療のバリュー」ということです。

津川友介(つがわ ゆうすけ)/カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部・医療政策学部 助教授。東北大学医学部卒、ハーバード公衆衛生大学院で修士号(MPH)、ハーバード大学で博士号(PhD)取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。著書に『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)(撮影:今井康一)

津川:山本さんがおっしゃったように、日本では「今私たちが使っている42兆円の医療費をどう効果的に使うか」という議論はほとんどされていないことは問題です。価値にかかわらず、とにかく費用を抑制するという議論の流れになっています。しかし、財源に限りがあるなら、その財源の中で、バリューが大きいものは何かという重みづけをして分配するというプロセスは、どこからお金を持ってきてどこに配分するかという財源論以上に重要な政策なのではないでしょうか。

佐藤:不健康寿命を縮めることも重要ではないかという問題意識も持っているのですが、このようなことは可能なのでしょうか。

山本:不健康寿命を縮める観点では、終末期医療のあり方も見逃せないと考えています。例えばイギリスでは、終末期医療に関するガイドラインの中で、どのような状況であれば治療の差し控えや中断をしてもよいということを国として明確に示しています。

日本でも一部の自治体が先行的に取り組んでいますが、まだ大勢とはいえません。この点は取り組みを進めていく必要があるでしょう。私は、予防と終末期医療は、表裏の関係にあると考えています。病気にならないように予防することと同じだけ、どのように死を迎えるかの議論もしていかないと、投資型医療は完結しません。

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